燦國恋歌
□序章・夢
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「……れっ…!」
目を開けると、そこは家のベッドじゃなかった。
あれ?
なんか机いっぱいあるんですけど?
まだ頭がはっきりしない俺は、状況が読み込めず目をぱちくりさせた。
「じゃあこの問題を……そうだな、市橋!」
教壇の上に、先生がいる。
おまけに俺を呼んでいらっしゃる。
ってことはここ、学校?
どうも俺は授業中に爆睡して、それで先生に目を付けられて今当てられてるらしかった。
「えーっと……」
意味のない言葉を発しながら、俺は辺りを見回した。
……今、何の授業だっけ?
だめだ、寝る前の記憶が全部とんでる。
教室中をきょろきょろ見回していると、隣の奴と目が合った。
「おい千早、この答えは『大化の改新』だぞ?」
こいつは高田亮(たかだ/りょう)という。
俺、市橋千早(いちはし/ちはや)の昔からの親友。
そいつがニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう言う。
本当を言うと、その顔を見た時、気づくべきだったんだ。
普通、真摯に問題の答を教えてやろうという時に人はこんな表情はしない。
けど、そのときの俺はかなりパニクってた。
授業中に夢見るほど爆睡していた自分にまずびっくりしてたし、起きた途端先生に当てられて、頭の中は湧きかえってたんだ。
だから、言っちまった。
自信満々に。
「大化の改新!」
と。
俺の発言に、一瞬周りがシィンと静まり返る。
あれ、おかしいな。
俺がそう思い始めた頃。
教室は耳がつぶれるほどの爆笑の渦に包まれた。
諸悪の根源である亮は、人一倍大きな声で笑っている。
「あのな、何か言いにくくなっちゃったんだけどな、市橋」
怒りを通り越して、憐れむような口調と表情で先生が言う。
「今、数学の時間だから」
「………ははは」
俺は頭をかいた。