政府の狐始めるってさ
□ろくじゅーごわ
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「貴様という奴はどうしていつもそうなのじゃ…」
「い、いや…、ごめんって…」
コタちゃんから先日の様に額に引っ掻き傷を受けつつグチグチとねちっこく文句を言われ続けております、遥陽です。
確かによくよく考えてみれば、昨日だったか一昨日くらいに先生のことを告げた時、私はこの子と会話をしてるんですわ。ただ、あの時はそれを伝えることだけで頭がいっぱいでしてね…?
何の違和感も感じさせなかったと言いますか…。その時は普通にスルーしちゃってた訳なんです。
「うん…。あれだ…、夜中に叫ばなかっただけ良かったって思っといてよ←」
「「ハァ………」」
私の反応にさっきから唖然としてい薬研と揃って溜息を吐かれたけど今更気にしませんよ…!
「あ、そんで何だったっけ…?覚悟…?
どっちに対してのこと言ってる…?」
私が解る範囲で言えば、可能性としては二つ。
一つは先日断念してしまった契約の件。もう一つはこの屋敷に関することだ。果たしてどちらに対してのものなのかと問えば、取り敢えずはここにやってきたのだから…ということで、私の予想で言えば後者に関することだったのだと知る。
「うーん……。まぁ、こればっかりは仕方ないかな…。形だけでも残しておきたいのは事実だし」
この屋敷全体に先生の結界が張ってあったのだが、あの人が他界した今この場所を護る者がいなくなってしまう訳で…。
長らく先生がここにいた結果、一種の神域化したと言っても過言でも無い様な場所を狙ってくる奴らがいないとも限らない。
コタちゃんが言いたいのはここを残すつもりならば、そいつらに奪われる前に私の術で上書きをしろといったことなのだ。
ただ、これには問題がある。
私の力で上書きした場合、あくまでも今まで過ごした場所に似せてあるってだけであり同一ではない。
例えば全く同じ部屋の作りをした家に住んでいるのに、Aさんの部屋を気に入ったからBさんがそっくりそのまま真似てみたとしても違和感が残ったりするといったのと同じことだ。
使い手が異なればどんなに似せても変わってくるのは当たり前である。
それに付け加え、私の今の体調が万全ではないといったこと。ある意味こっちの方が厄介だ。
先にあげた問題点に関しては、私の気持ち次第でどうにでもなる。ただ、こちらに関しては……。
「あー…。薬研、私ちょっと暫くの間此処で療養兼ねて暮らすって、皆に伝えといてくんない…?」
急に出てきちゃったならきっと今頃大問題になってんじゃね…?
この歳にもなって家出騒動に発展するとかマジ恥ずかしすぎる…と強ち間違ってなさそうな様子を思い浮かべて笑みが引き攣るのを自覚しながら、向こうに戻り次第の伝言を託せば即答で却下を受けた。
…ん?
「…は?」
「聞こえなかったか…?俺は断る、って言ったんだ」
「いやいやいや、聞こえてますから。じゃなくて…!!」
昨日のご当主さんとの対談の時にも思ったが、何だ…?あまりにも色々やらかしすぎて、薬研ったら反抗期に入っちゃった感じか…?
だとしたら、かなり今更すぎる。ついでに言えばタイミングも悪すぎだ。
せめて、即答止めてくんないかな…。ちょっとは考える素振りを…!なんて思っていれば、伝言に関してはコタちゃんが伝えてきてくれるらしいので、今は待機をしているんですが……。
(……気まずい)
過去にも散々叱られたりといったことはあっても此処まで気まずくなったことは無いはずだ。
反抗期に入るくらい嫌になったなっていうなら、他の子に近侍を変わってもr…
「そんなことしたら、ただで済むと思うなよ…?」
「え゛…?」
余りにも不機嫌さを隠そうともしない薬研にビクついた私は彼とだいぶ距離をとって部屋の隅で大人しくしていたのだが…。
いつの間にやってきたのか知らないが、目の前で不良座りをしつつ半目になって釘を刺してくる彼がめっちゃ怖い。
そもそも私は口には出していないはずなんだが…。