政府の狐始めるってさ

□ろくじゅーろくわ
1ページ/11ページ


「おやまぁ、久しぶりねぇー」

「あ、どーも。お早うございます…」




昨夜あのまま寝落ちしたらしいので、朝一でシャワーを浴びてきた私は家の周りに落ち葉が溜まっていたのを思い出し、表に出て箒で掃いていればご近所さん達がわらわらと集まってきてしまったではないか。


相変わらず健康一番が代名詞かの様なご近所さん達は早起きな人が多く、早朝から年齢を気にすることもなく活発に動き回る姿には変なとこで感心するものの、審神者となった今知り合いに会うのは出来るだけ避けたいのだが…。


(聞いちゃくれないな、きっと……)


人の気など露知らず、たぶん言ってもあーだこーだと理由をつけてはその場に残るに違いないと経験上誰に言われるまでも無く解る。


この家の近くに住む人達は老夫婦だけで暮らしているものの、中々実のお孫さんと会えない人が多いらしく…。先生の変わりに地域のボランティア行事何かに顔を出しては実のお孫さんの変わりだといわんばかりに可愛がってもらった。


自分で言うのもあれだがまさに猫可愛がり…といった言葉が正しいのか、あれよこれよという間に近所のお宅に突然の訪問なんてザラで…。


お茶が出され、お菓子が菓子鉢に入りきらない程積み上げられた挙句に、食事まで用意される。そうやって延々と話に付き合わされるのだ。中には囲碁や、将棋。花札やら、麻雀と趣味に付き合わされた覚えまであった。




一年程顔を見せなかったと言って心配してくれるのはいいが、現在進行形で人の話等そっちのけでこれから誰々の家に集まろうと相談するのはマジで勘弁願いたい。これじゃ事情を知らない人が見たら完全な誘拐事件の出来上がりではないか。



とは言ってもそれらの誘いを無碍にも出来ず、苦笑しながらも少しくらいならと認めてしまう私にも一端の責任はあるのだろうが…。




そんなこんなで、何故だか家の前の掃除を途中ですっぽかした私は、お向かいの家の爺ちゃんの家にお邪魔しております。それも、他のご近所さん達を交えてといった大人数で…。


こうやって図らずとも憩いの家が出来てしまうのがシニア世代の凄いとこだと今更ながらに強く実感しつつ、あちらこちらで話しかけられる言葉に相槌を入れていれば薬研が迎えに来てくれたことを知る。



案の定政府から支給される札を彼に未だ用意していなかったらしく、その姿を一般の人が捉えられないとは言え、他人様の家の屋根に登って探すのはさすがにどうかと思うぞ…?


そんな彼は私の姿を見つけるや否やこの家の庭に植わる樹の下で待っていてくれる様なので、未だ談笑を続ける皆には適当に理由をつけて今日のところはさっさと帰らせてもらうことにしたのだ。






「もう良かったのか…?」

慌てて私の後をついてきた薬研は随分としんみり見送られてたがなんて先程の様子を思い出してか苦笑を溢しながら尋ねてくるので、元先生宅の門扉の内側に入ってからこちらも乾いた笑みで返す。


あれに付き合ってたら時間なんかあっという間だと…。


事実、過去にはあの手この手で引きとめようとしてきたのを断りきれず、今日と同じく早朝に連れ込まれ何故かそこで三食+おやつを頂くこととなった…なんてことは決して一度や二度ではない。



時間がある時ならばいざ知らず、今回は早々に引き上げるのが正解だった筈だ。何せ昨日の調べものが終わっていない上に、夜中に使った術の影響かやたらと身体が怠いのだから…。



「やげーん。癒して…」


まだ陽が昇り始めて間もないというのに何言ってんだと自分でも思うが、如何せん鉛の様に重く感じる身体では頭までもがまともに機能してくれない。そんな現状を気合で乗り切ろうと口にすれば、少し驚きに目を見張るものの、壊れ物でも扱うかの様にそっと持ち上げられた片手から神力を少し流し入れてもらうことが出来た。




「大将…。随分と体温が高く感じるが…」


熱でもあるのか?と問われるが風邪をひく様なことをした覚えはn……。





(あったな、そーいや……)


いや、でもまさか。大分…って程でもないが、こんな数日遅れで風邪なんかひくもんですかね…?


数日前に行った黒丸で寒中水泳とまでは行かずとも、日中の気温も大分落ち着いたこの時期に池に落ちたことを今更だが思い出す。


とはいえ、某市販風邪薬のCM風で言うなら私の風邪は主に喉からだ。普段から叫んだりなんだとしているせいで余計に悪化してるんだろうが、その症状が現れた時にはそりゃーもう自分でも本当に同一人物かどうかすら怪しくなるくらいに酷い有様である。



因みに、大抵が風邪だと気がついた時には既に悪化の一途どころか寝込む寸前だったりするのもホント…。


ほら、よくバカは風邪をひかないだの言うじゃないですか…。あれって、“風邪だと認識していない”の間違いだと思うんですよね、私…。


喉が痛いなー…なんて気がついたその日の晩に熱が上がり、数日間はインフルでも無いのに寝込むハメになったなんてこと多々あるにも関わらず、それでも一切身体が覚えちゃくれないのってどうすればいいと思います?


まぁ、そんなこんなで決して油断は出来ないものの普段の順番と異なることから、違う(たぶん)と答えつつ、二人で朝食作りの為にキッチンへと向かって行くのだった。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ