政府の狐始めるってさ

□ろくじゅーきゅーわ
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先日、いまつるちゃんを極修行とやら見送って…。彼が帰ったと思ったら入れ替わりで乱ちゃんが旅立っていった。恐らく残った三人も同様に一人帰っては、新たに旅立ち…と繰り返すちびっ子達を順々に見送ることになるのだろう……。まぁ、それは全然構わないんですけどね…?


「薬研、ひま」

「ダメだと言ってるだろ?何回言わせるんだ」



何が原因かなんて解らないけど、現世でプライベート空間を創りあげて帰ってきた翌日から微熱が続き…。今の私はと言えば外出は疎か、本丸内での行動すら制限されている日々なんです。


えぇ、そんな日も今日でかれこれ2週間が経ちましたとも…。みっちーから熱が出てるから休んでいろと言われた時には驚いたけど、さすがにこんだけの日数休まされてみろ。

ひま、なんて言葉で済むわけがない。しかもご丁寧に厳重な警備付き…。あぁ、これは薬研だけに限らずですよ?いち兄+粟田口兄弟の時だったり、まんばちゃんとか伽羅ちゃんとか…。たかがトイレ(という名の息抜き)に行くだけでも一苦労なんです、これが……。

そんなこんなで一日に何度も口にしているから私も正確な数なんて知るはずもないが、それだけ暇死しかけてるんです。

コンちゃんから日毎に渡される書類なんて微々たるもの。対策課で溜まってる分を回してもらったりとしたけど、それでも二日で全部終わってしまった。


大体、皆が大袈裟過ぎるのがいけないのだ。未だ些細なことでさえ心配してくれることに関しては感謝してはいるが、物には限度ってものがあってですね…。

発熱以外に症状は無く、普段よりも気怠い感じはあるものの動き回ることに何の支障もない状況で軟禁される意味が解らない。



「ねぇ、薬研ってばー……。

あ?……うん、最初からこーすれば良かったんだw」


私の監視中な薬研はすぐ傍で薬の調合中なんで今は構ってもらえず…。暇ならそのまま寝ちまったらどーだなんて言ってくるので、たった今思いついたばかりのことを実践してみたいと思います、まる!



先ずは怪しまれない様、言われたとおり布団を引っ張り出してですね…。

念の為、薬研から見えない位置で新品の草履を片手に床の間に置いてあったポシェットを身につけながらお布団の中にいそいそと潜り込んでーー……






この部屋に張ってある結界を解きつつ“お外に連れてって!”と強く願うだけであら不思議。


布団の中に突如現れるうぞうぞと動き回る無数の手に吐き気を覚えるけどそこは我慢して…。

それに耐えきればご褒美と言わんばかりに広がる目の前の景色は、本丸の裏にある林の中。つまるところ、私が望んだとおり外に出ることが出来たのだ。



(うんうん。着々とあっちよりに近づいているって証拠だね、こりゃ…)



もしやと思ってやってみただけだったのだが、成功してしまったことにある意味私自身がびっくりである。



決して予想をしていなかった訳ではないし、私の中に巣食っているモノを忘れたことだってない。


だけど、本丸に連れ戻されてからというもの皆が今まで通りに接してくれるから…。

彼が大将と…。皆が主と未だに呼んでくれるから私の中でちょっとした期待が生まれてしまっていたのだ。




何も知らなかった頃の様に過ごしてもいいのだと……。




でもそれは決して許されることではない。

穢を持った状態で神様と接するなんて先ず有り得ないし、彼らの中には私の霊力が流れている訳で…。

澄んだ力で無ければならない筈のそれだが、仮に何かの拍子…。例えば、手入れの時とかにでも間違って、侵されている力を流し込んでしまったらなんて想像しただけでも恐ろしい。



夢に視た訳でもないから何が起こるかなんて解らないけど、悪い方にしか転ばないだろうってことだけは容易に想像がつく。だからこそ、有り得もしない期待に踊らされている暇などないのだ。



今もなお私が後ろに建つ本丸で審神者を続けていられるのは、薬研達の恩情であることは間違いないのだが…。


政府側立場から見るなら、体のいいモルモットと言ったところか。



眷属化した今、半永久的に生きることとなった訳だが、それは深刻な審神者不足を打破するには手っ取り早い解決策なのだ。今までは隠される審神者が多かったこともあって恋愛云々を否定してきた政府もこの結果を元に大きく意見を変えるだろうことも予想済み。




ついでに言えば、それを機にまた神を神とも思わぬ馬鹿どもが過ちを繰り返すだろうことも火を見るより明らかだった。
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