【過去】拍手

□拍手 V
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「Halloween?やりたいの…?」

縁側に腰掛け少し遅めのおやつを頂いている最中、遠征から戻ったばかりの鯰尾が走ってきてお願いがあると言うから話を聞いてみたンだけど……。


「他の本丸の皆さんは毎年仮装して盛大にやっているんですって!俺らもやりましょう!」

「うーん、まぁ皆がやりたいなら私は構わないけど…

ちゃんと準備と片付けも手伝う?」

「勿論ですって!俺らだけで準備はするつもりなんで、主さんは当日参加するだけでお願いしますよ?」


ぶっちゃけ言うと面倒。お菓子は好きだけど、仮装迄手の込んだことして欲しいかと聞かれれば否だ。そこら辺で買えばいいってのが本音である。

だけど、こうやって他の子も連れてやってみたい!と言ってきた鯰尾他10名余りに却下するのも憚れた私は本丸内でのHalloweenパーティの許可を出したのだ。



洋服は俺らで用意しておきます!と言って来たとき同様ぞろぞろと引き上げていく皆の背中を見て私は何だったんだ?と首を傾げることとなった。



「大将、此処にいたのか…」

「薬研…。神様が妖の類に化けるってどう思う…?」


心当たりが無いわけじゃ無いんだけどそれって大丈夫なの…?と尋ねてみれば、既に鯰尾から聞いていたのだろう。兄弟達が無理言ってスマンな、と苦笑して変なのを寄せ付ける様であればその時点で中止にするかと提案してきたので取り敢えずはそれに頷いといた。



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それから数日後の今日。
カレンダーには10月31日の日付が…。つまり本日は皆が楽しみにしているであろうHalloweenパーティ当日な訳で、取り敢えず今日の夕方には皆の仕事が終わる程度で割り振っておいた。勿論、終礼も本日に限り2時間早めて15時だ。


因みに、それまでの間私はと言えば、薬研共々離れ以外に行くことを禁止されてしまった。何でも母屋全体を飾り付けするんだとかで、その間の作業を私達は見てはいけないらしい…。

まぁ、離れにトイレは勿論、簡易のキッチンと小さめなシャワールームもあるので全くもって困りはしない。食事に関しても、向こうで作業している誰かが運んでくると言うので取り敢えず時間潰しで薬研による兵法の講座を開いてもらっていれば時間が経つのも早く感じ、終礼頃になって部屋にやってきた乱ちゃんと清光が隣室で着替える様にと言ってきた。



言われるままに隣の部屋に移り手渡された紙袋の中を確認してみたのだが……


「え゛…、マジでこれ着なきゃダメ…?」

「「勿論!!」」


魔女のコスプレでもさせられる程度には検討をつけていたのだが、出てきたのは薄いピンク色のナース服。それもかなりのミニ丈…。口端が引き攣るのもお解り頂けただろうか…?

現世で言うあの雑貨やコスプレグッズなんかも数多く扱うペンギン印のお店で売られている様な物ではなく、ハッキリ言っちゃえば成人以上の人以外入店禁止なお店である様な服なのだ。

生地が薄ければ、丈も短い。ついでにと渡されたフリルがついたガーターベルト付きの黒のソックスも併せれば如何わしいお店で働いているお姉さん方の出来上がりだ。これを着て皆の前に行けと言うのかと二人に尋ねるが即答で肯き返されてしまった。


こんなものもっと可愛い子が着るなら未だしも私が着て何になるというのか…。ブツクサと文句を言いながら急かす二人によって次々と着替えさせられていき先程迄私がいた執務室に繋がる襖を開けられた。勿論、その部屋にいるのは先程迄一緒だった薬研な訳で…。

こちらに向けられた視線が突き刺さっていたたまれなくなり、真横にいた清光の真後ろに隠れてみた。


(うん。清光なら身長同じくらいだから安心して隠れられるよね…!)

目の前に立たせた彼が逃げない様にと内番服の紅い半着の端を掴みながら油断しきっていた私は気が付くことがなかった。彼に触れられる迄は……。



「たいしょ…。しがみ付くなら俺にしとこう、な?」

「ふみゃぁぁぁぁッ!!??」


可愛らしい悲鳴?そんなもん私に求めないで頂きたい。いつの間にか背後に忍び寄っていた薬研はあろうことか私の耳元で息を吹きかけながら囁き、更に彼の手はガーターベルトと太腿の間に指を入れてそこを撫で出す始末…。
これで悲鳴をあげるなっていう方が無理に決まっている。背筋をゾワゾワと駆け抜ける様な感覚に思わず掴んでいた着物を離せば腰が抜けて崩れ折れるその時を見計らったその原因の薬研に抱きとめられた。しかも大丈夫か?なんて笑って聞いてくるモンだから相変わらず性格が悪い。



「薬研はいつもお医者さんの格好だからね〜♪
その相方な主さんにはナースさんになって貰いました!ってことで、ハイ☆」


頑張って行ってらっしゃい♪と乱ちゃんにドンと薬研が押されれば彼に抱きしめられている私諸共開かれた襖から部屋を出される訳で…。


「とりっく、おあ、とりーとッ!(です!)」

「ギャァァァァァッ!!!!」


乱ちゃんの頑張っての意味が漸く理解出来たのと、鯰尾達だけに準備を任せたことを海よりも深く後悔したのは時を同じくしてだった。


部屋の外で待ち構えていたのだろう皆の姿は確かに妖怪の姿である。但し、西洋のヴァンパイアやミイラ男、狼男なんかのものではなく、日本の百鬼夜行の絵巻なんかにある様なそれ…。
悲鳴をあげてすぐ後ろの薬研に抱きつき見えない様にとするが、わらわらと集まってくる皆に耐えられなかった私は……


「鯰尾、出てこーいッ!!!!」

その日一番の叫び声で犯人である彼を呼びつけ勘違いを正すのはこの数分後。それはまた別の機会に話すとでもしようか…。

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「主さーん、今年もやりましょう!はろいん!!」

「妖怪大戦●にしなければ構いませんよ…」


そんな日から季節が巡り一年。
去年と同じくやってきた彼に溜息を吐きながら許可を出してしまう私はやはり彼らに甘いのだろう…。隣で聞いていた薬研も程々にしとけよ?と苦笑しつつそれでも私と視線が交わればどちらともなく笑いあう。どうかこんな平和な日が続く様にと願って……


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