政府の狐始めるってさ

□ろくじゅーいちわ
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「うーん…、これはまた何とも……」

「「ばっちぃ……」」


池に連れてきてもらった迄はいい。だが、肝心のその水は余りにも汚れすぎていてカメ君を泳がすには見るからに衛生的に悪そうな場所だった。

どストレートに呟かれた言葉に思わず頷いてしまう程に汚い。最早、掃除が行き届いていなかったとか、穢が溜まっていたから…というレベルではなかった。地獄絵図で血の池地獄ってのがあるが、今見てるそれはまさにそんな感じ。私の幻覚かと思いもしたが、他の二神にも見えているなら私の見間違いでも、幻覚でもない様だ。


今回の私の任務はここの再生だから見てしまった以上放っておくことも出来ないんだが、どうやって清めたものか…と首を傾げていれば以前コンちゃんから聞いた話を思い出した。


あれはまだ本丸襲撃から日が経っておらず、至るところにその名残…っていうか、破損した襖だったり障子だったりその残骸が端に寄せられて積み上がっているものの中々片付けが思う様に進んでいなかった頃のこと。


審神者である皆様のレベルにもよりますがと前置きを受けた上ではあったが、“荒れた本丸の景観を直すのにご自身の霊力で行われる方もおります”とー…。


限られた場所だけしか行えない様ですが…と付け加える様な言葉と併せて確かに彼はそう言っていた。それを聞いた私がならば早速実践を…!としようとしたところでその時は思わぬ襲撃をくらい断念せざるを得なかったのだが…。


誰に?決まってます。初期組率いる過保護度がカンストした連中にですよッ……!

何なんですかね、あれ…。止めるのはいいとして、THE★実力行使ってどんだけですか?

当時の私といえば、記憶が間違いでなければ片腕にそれなりの怪我をしてた筈なんだが…。それにも関わらず、べちゃと音が聞こえてくる程に押し潰された実態…。一体誰の影響なんでしょうか…←



(……。試しにやってみてもいいよね?


今は止める子いないし…)



誰に問うでもなく一人自己解決した私はやり方を聞いた訳でも無いので取り敢えずその場に屈んで、近くの縁石にそっと苔と取り除く様に触れてみれば仄かにそこが光って汚れが消えたではないか…。水垢みたいな滑りは勿論、苔迄もが綺麗に無くなったそこを見て好奇心が疼くのが自分でもよく解る。


(何これ、ちょっとおもしろいかも……)


こんなお掃除ゲーム前にあったかもしれないと思い出しながら調子づいた私が、今度はしっかりと手を触れて霊力を流してみた。

宛ら片腕・片脚に義手義足をつけた某凸凹兄弟にでもなった気分だ。


光の強さに思わず目を瞑ってしまっていた様で、どれくらいの量流せばいいのかすら解らずやったもんだから取り敢えずこのくらい…?と思ったあたりで視界を開けながら辺りを見回せば……。


「わーお……(・ω・`)」


確かに綺麗にはなった。それは池だけに留まらず、屋敷そのものが新築か…?と思うほどに…。そのまま少しずつ母屋から庭。今いる池の周りへと視線を滑らせて行けば、一面雑草が生え放題だったそこには、伸びきった雑草こそ残っているものの今の時期にあった秋桜が大量に花を咲かせていた。


うん。確かに自分でやったそれにも驚きましたよ…?


ただ、ね?考えても見てください。血の池となったそこを綺麗にした場合に出てくるそれら…。



人、馬問わず残骸とも呼べるそれらが放り込んであったんですわ…(泣



「○$□#△&…!!!!!(涙目 」


最早叫んだはいいが言葉にすらなっていない。すぐさま回れ右をした私はダッシュでその場を離れようとしたんだけど……。忘れていたんです。自分の体調を……。



ただでさえ霊力が無かったところをまた空に近づけてしまったのだ。当然の様に立ち眩みとも呼べる症状を起こした私は、焦った顔を向けながらも二神が伸ばしてくれた手を掴むことすら出来ずに後ろへ倒れていった。



バシャンと大きな音と水飛沫をあげつつ背中からダイブしたそこは言わずもがな例の池でありまして……。いくら水を綺麗にしようが“それら”と同じとこに浸かってると想像しただけで物の見事に動きが緊急停止。ついでに言えば、慌てた二神の後ろから駆けてくる姿を見て思考も停止……。



そんな中、私の後に続く様にもう一度大きな音と水飛沫をあげて飛び込んできた子はなんと……。



「トラぁぁぁあああッ……Σ(゚д゚lll)?!」



ホワイトタイガーだったんです。しかもかなりの巨体…。内心、何ここ動物園?!とツッこむことを忘れずとも迫ってくるそいつから逃げようとするも、生憎身体は上手く動かせず…。しかもまだ距離はあるものの、視界に人の成れの果てを入れてしまえば尚の事一人パニクる訳でして…。


敢え無くその子に捕獲された訳であります(;´・ω・)




その後すぐその子は捕獲した私を咥えたまま元の広間迄連れて行った挙句、ご丁寧にも薬研の目の前へそっと降ろしたのだった。因みに二神とカメ君はと言えばトラの背中に乗ってとっても楽しそうにはしゃいでおりましたよ。何とも羨ましい……←





「…で?何か俺に言うことは……?」


「ご、ごめんなさいぃぃぃ…・゜・(ノД`)・゜・」



目の前に仁王立ちする般若基、薬研へ素直に謝れば聞こえてくるのは当然ながら深い溜息でした。
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