この的も貴方の心も射抜いてあげましょう。
□TODAY IS
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それから小さなイベントや学校の文化祭に参加したりして、知名度を上げていた。
そんな中、ミュージックフェスタへの出演依頼が舞い込んできた。
ミュー軸フェスタは地上波で放送される音楽番組。
今回はTRIGGERも出演するらしい。
この番組でうまく知名度を上げれば、メジャーデビューの機会もあった。
しかし、このチャンスを逃せば、先日のライブでファン層が増え、八乙女事務所に引き抜きの危機にある環と壮五だけをMEZZO"としてデビューさせるつもりだと音晴は告げていた。
そして、緊張感が高まる中、IDOLiSh7はミュージックフェスタ当日を迎えた―――
結実は紡と一緒にスタッフへの挨拶回りをしていた。
「そういや、このあたりにTRIGGERの控室があったと思うけど…どうする、挨拶しとくか?」
「うん…これからもお世話になると思うし…」
紡が後ろを振り向きながら廊下の角に差し掛かった。
前方に注意がいっていなかったのか、角を曲がった人にぶつかった。
「わっすみません…!」
「こちらもすまな…結!?」
「え。」
突然耳に入ったのは、今は亡き2人の母の名だった。
紡がぶつかった相手―――八乙女のプロダクションの社長は紡の顔を覗き込む。
(紡は死んだ母さんに生き写しだ…もしかしたらこの人は…)
「…妹の、小鳥遊紡に何か御用でしょうか、八乙女社長。」
「おい!何やってんだ!」
「…っ、楽…」
「…あんたら、大丈夫か。」
間に入ってきたのは、TRIGGERの八乙女楽だった。
「は…はい…」
「…あいつの愛人だか拾われた新人だか知らねえけど。あまり、深入りするなよ。いいことなんもねえぞ。」
「えっ、あの…」
「愛人じゃねえのか?」
「あっ、あ、わたくし、申し遅れまして、本日出演させていただくっ、いただきます、あの…」
学生時代はTRIGGERのファンだった紡は本物を目の前にしてしどろもどろになっていた。
「はは…何言ってんだ。」
「た、小鳥遊プロダクションのIDOLiSH7担当の小鳥遊紡と申します!」
「同じく小鳥遊結実です。今はうちのタレントがいませんが、また改めて楽屋にご挨拶に…」
「悪いけど、忙しいから。」
「は、はいっ。せ、先日は誠に申し訳ありませんでした!ライブの後…」
「ああ…はいはい。じゃあ、どうも。」
「お時間いただいて、ありがとうございました。本日はよろしくお願いします。」
「…今日、期待してっからな。…それじゃあな。」
「あいがとうございます!」
八乙女の言葉に紡は喜ぶ。
「…。…八乙女楽が、期待してるって言ってくれた…」
「よかったな、紡。」
「うん。…お姉ちゃん?どうかした?」
「あ、いや…紡は本当に死んだ母さんそっくりだと思ってね。」
幼い頃の記憶の片隅に、父と八乙女社長に昔何かがあったことは結実はかすかに残っていた。
それに母も関係していたことも。
(父さん…まさかとは思うけど、昼ドラみたいなこととかはやめてくれよ…)
何も知らない紡には言わないでおこうと結実は心に決めた。