長編小説

□神様到来
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「おい、誰かダサ男入れてやれよ〜」
「そういうお前がな!」
「「「あははははは!」」」

体育の時間はだいたいこれだ。
ダサ男こと、神ヶ崎洸は勉強も運動も人並み以下なのである。
だから、チーム戦の体育の時は誰もチームには入れてくれない。

「はいはい!そんなこどもみたいなことしない!小学生もやりませんよ!」

たいていいつも、体育教師の一言でことは治まる。
そして人数合わせのために、少ないところに入れられる。
その瞬間、そのチームの最下位が決まる。

「ったくよ!ダサ男がいるからだ!」
「テメー、あとでジュース買ってこいよ!」
「ついでに昼飯もな!」

なんとも、勝手な捨て台詞を吐かれてしまった。
4人分の昼飯を買うお金など、中学生が持っているはずがない。

昼休みまでの残りの午前授業はすべて右から左に聞き流していた。
どうせあてられてもわからないのがわかっているからだ。
でも一応ノートはとるけど。


昼休みになり、先程の4人に囲まれた。
ジュースと昼飯の注文だ。

「おい、聞いてんのか?ダサ男」
「お金も渡してよ」
「はぁ?なに言ってんの?お前」

こっちの台詞だ。

「お前のせいでさっきの試合負けたんだろ?」

俺のところに一度もボール回ってきてないけどね。

「神ヶ崎洸いますか〜?」
「……うわ!超可愛い!」

C組に顔を出した美少女。
クラス中の男子が息を呑むのがわかった。

「あ、いたいた。反応してよ!」
「……ごめん」
「あれ?洸のお友達?」
「あ、ああ!なっ、ダサ……洸!俺達親友だよな!」

調子のいいやつらめ。
よく見てみろよ。
このつくり笑い。

「ふーん?あ、洸かりていくね」
「「「「どうぞ、どうぞ」」」」
「行こう、洸」
「うん」

俺を引っ張ってさっさと教室を出ていく美少女。
名を神崎奏と言い、神ヶ崎家と古くからの付き合いのある家の娘だ。


引きずられるがまま、屋上に到着。

「洸、その格好やめたら?」

もちろん、奏に嘘は通じない。
だからさっきのやつらの嘘は丸わかりだ。

「どうして?」
「だって、洸格好悪いもん。ダサ男とか呼ばれてるし」
「こうでもしなきゃ、力、抑えられないだろ」
「せめて、眼鏡の種類変えるとか……」
「目は見せられない」
「……もう、そのままでいいんじゃない?」
「うん、いいよ」

奏は10人が10人振り返るような美少女だ。
そして、成績も運動も万能。
それが、奏のスタイルである。

俺たちは生まれた時から不思議な力を備えている。
俺たちの種族は神様。
しかし神様にはいろんなタイプがいるのだ。

俺のように、国語のみ学年トップをキープ、その他はすべて最下位になれ。
それが俺が人間になっているために出された条件。
奏は成績上位でなければならないというのが条件だ。
ルックスはもともといいから、特に努力する必要はない。

ちなみに、神様の仕事もある。
簡単に言えば人間の願いを叶えることだ。
叶えるといってもただ願っているだけのものを叶えるわけではない。
努力をし続ける者にのみ、俺たちは手を貸すのだ。
褒美を与えるかのように。
それが神様の主な仕事内容。

「露希と露阿と露来、ちゃんと勉強してるかな」
「してないだろうな」
「帰ったら教えるの?」
「仕方ねーだろ。俺らしか教えられるのいないんだし」

現在、人間に紛れている神様は俺と奏のみ。
神様の中でも優秀と認められた者にのみ与えられる、人間とともに生活をする仕事。

これを行うものは次に人間とともに生活するための神様を自分自身で育てなければならない。
そこで俺と奏が選んだのは
神轟家の露希、露阿、露来の3つ子たちだった。
しかし、まだまだ遊びたい盛り。
勉強をさせるのも一苦労なのだ。

―キーンコーンカーンコーン

「あ、じゃあ、また後で」
「おう」

俺は眼鏡を掛け直し、授業を受けに向かった。


本日も学校生活お疲れ様でした。
昼飯は4人に奢らなかった。
奏が来てくれたのが幸いした。

「あ、いた!おーい、洸!」

噂をすればなんとやら。
奏本人の登場だ。

「一緒に帰ろ〜」
「うん」

さて明日にはどんな噂が流れてるのやら。
笑顔の奏を見ながら、俺はふと思っていた。

/

空に近いところに住む俺たちは家も山の上。
しかし、山登りは別に苦ではない。
たくさんの動物たちが一緒に歩いてくれるからだ。
山を登りきれば、そこに広がるのは広大な敷地。
数えきれないほどの屋敷が連なったそこが、俺たち神様が集う場所。
俺が住む神ヶ崎家と奏が住む神崎家と、これから向かう3つ子の住む神轟家は比較的近場だから他の神様よりも交流が多い。

「なんか菓子持ってく?」

俺の家にはなぜか菓子が山ほどある。
菓子集めが趣味な父を持ったからこうなったというのもあるが。

「あれある?お饅頭!」
「あぁ、ある。じゃあ和菓子と洋菓子どっちも用意してくるわ」
「うん!」

神轟家に行く前に俺の家の前を通る。
だからこうしてよくお菓子を持っていく。
ついでに俺は着替えて、前髪をあげ、眼鏡をとる。
うん、すっきり。


「おーい!遊びに来たよ〜」
「あ!奏ちゃんだぁ!」
「本当だ!」
「洸くんもいる!」

俺はついでか。
こどもは本当、残酷なほど正直だ。

「昨日だした宿題は終わってるか?」
「「「…………」」」

3つ子はにっこりと笑顔のまま、何も言わない。
やってないな、こりゃ。

「お菓子はなしだな」
「「「えぇぇえええええ!」」」
「当たり前だろ?言われたことができねぇんだ。なしはなし」
「「「い、今からちゃんとやるから!だから、ちょうだい?」」」

うるうるうると俺を見つめてくる3つ子。
奏はくすくすと笑っている。

「じゃ、一緒に片づけておやつにするか」
「「「やったー!じゃあ、はやく!教えて!」」」
「はいはい、奏もな」
「わかってるよ」

人間と共に生活する神様になる条件は12歳までに出された全課程を修了することだ。
課程の主は勉学と運動。
人間に紛れるときに課せられる条件がどのようなものでも完璧にこなせるようにするためである。

ちなみに俺と奏はこれをわずか2年で終えた。
神様史上最短記録だと、皆に褒め称えられた。

そして、この3つ子の勉学は3年目に突入する。
年齢は10歳だ。
タイムリミットも近づいている。
筋はよいのだが、集中力の乏しい3つ子に本当に手を焼いている。
やればできるのになぁ。

「露来、それはこっちの……」
「え?あ、そっかそっか。こうか」
「あぁ。露阿は……うん、正解」
「やったぁ!」
「あ、洸!露希もう完璧!」
「本当か?じゃあ、次」
「えぇ!まだあるのー!?」
「これを終えて、試験を受けたらおしまいだ」
「頑張る!」
「ふふ、頑張ってね」

3つ子の中では、露希が一番賢いか?

「こーうー!お腹すいたよぉ」
「あー、この問題だけ頑張ってくれよ?な?」
「……うん」
「これはさっきやった公式使って……」
「うん、もうできる」
「そっか。露阿は?終わった?」
「うん!」
「よしっと、露来も終わったな。よし!おやつにするか」
「「「やったぁー!」」」
「私、用意してくるね」
「あぁ、ありがとう」

この後、みんなでおやつを食べた。
3つ子は嬉しそうに頬張った。
もう少しで3つ子が人間と共に暮らせる。
 
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