長編小説

□青空と君と僕
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昼休み、桐吾と共に保健室を訪ねた。
今日はここで食べると決めていたので昼食も持参した。
先生も昼食を摂っていて、それに同席させてもらえることになった。
ベッドはひとつ使用中になっている。
それをちらりと見ると、先生は「白築くん」と声を掛けた。
見られていたと思うと恥ずかしくなって、購買で買ったパンも味がわからなくなる。

カーテンが揺れ、僅かに顔をのぞかせた。
やはり眠っている様子はない。
先生と目が合ったらしく、先生が「六瀬くん」と言った。

わざわざこちらまで出てきてくれた白築は先生の隣りに座った。
今日はグレーのカーディガンを着ているようだ。

「初めまして。俺、秋晴の友達の常陸桐吾って言います。学年順位一番なんですね、白築先輩って」
「初めまして。学年順位ってことは、わざわざ僕の名前さがしたの?」
「そういえばクラス知らないなーってなったんです。迷惑でした?」
「いいや。そんなことないよ」

やんわりと笑みを浮かべた白築に、俺は顔が赤くなった。
桐吾は目を見開いてその美しさに驚いている様子だった。

「白築先輩って、よく保健室にいるんですか?」
「ああ、うん。だいたいここにいるよ」
「教室は行かないんですか?」
「そうだね」
「じゃあ授業とかどうしてるんですか?」
「おい!桐吾!そんないっぺんに聞いたら失礼だろ!」
「だって秋晴、いつまで経っても聞かなそうだし」
「ふふ、仲が良いんだね」
「あ、いや。同じクラスで同じバスケ部なだけなんで」
「ふぅん?」

桐吾は白築の表情の変化があまりないことに不思議に思う。
それからあまり教室に行っていないということもなにか引っ掛かった。

「君たちゆっくりしていていいのかい?もうすぐ昼休み終わるよ」
「いっけね!次体育だった!」
「じゃあ、ぼちぼち退散しますね。ばいばい、白築先輩」
「頑張ってね」

桐吾が白築に手を振ると、白築はぱっと手を挙げて返してくれた。
その顔には貼り付けたような笑みが浮かんでいる。
俺はそれに胸を高鳴らせながら早足で保健室を後にした。

/

「え?白築先輩には近寄らない方がいいってどういうことだよ」
「そのまんまの意味だよ。だっておかしいだろ?保健室登校してるっぽいし、笑い方とかもなんか嘘くさい」
「なんで桐吾がそんなこと言うんだよ!」
「だって結局クラスわかんないじゃん。あの人本当にクラスに所属してるのか?」
「してるだろ、在学生なんだからさ」
「だったら、どうしてクラスがわからない?」
「そんなの……俺がわかるわけないだろ」

桐吾がなにか言いたいということは伝わってくるが、白築の事情を考えない発言に苛立ちも感じていた。
確かになにかがおかしいというのはわかる。
でもそれ以上に俺は白築の容姿に恋をしていた。

初めて見た日から目を瞑ればすぐに思い出せる。
色白の透明感のある肌に、天使を連想させるような柔らかさ。
あの笑い方ひとつをとっても息をするのを忘れてしまうほどにただただ美しい。

「後戻りできるうちに踏み止まれよ」

笛の音に、先に桐吾が走り出す。

俺は一体、なににはまっているというのだろうか。
わからないまま笛の音に弾かれるように足を動かした。
 
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