長編小説

□Colorful
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俺の名前は楠木十色。
『十色』と書いて『とい』なんて珍しい読み方をするとよく言われるが、名前の由来はおもちゃのように繊細で優しく、他人を安心させることのできる心と色鮮やかな明るい表情を出せる子になりますように、だそうだ。
何度も馬鹿にされてきたが、俺はこの名前が大好きだ。
だから他人に何と言われようと俺は決して気にしなかった。


―カラン、コロン

扉にくくりつけられたお客様の来店を知らせる鈴が鳴る。
作業の手を止め、扉の方に顔を向ける。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは、十色くん」
「こんにちは。本日は何をお探しで?」

ここ、楠木のおもちゃ屋さんは俺の家。
そして名前の通りおもちゃ屋でもある。

おもちゃの他にも人形に使える裁縫道具や、布なども置いてあり、近所の人はよく来てくれている。
もちろん壊れたおもちゃの修理も行っている。

「このお人形に合う洋服の布を探しに」
「手作りですか?よくできていますね」
「あらっ、相変わらず十色くんはお世辞が上手ねぇ」
「お世辞なんて言ってないですよ。本当に心からそう思っています。そうですね、その人形にはこの布なんてどうでしょう」
「可愛いわぁ!あとレースもないかしら?」
「レースはこちらがよく合うと思いますよ」
「うんうん。じゃあこの布とレースいただくわ」
「ありがとうございます」

丁寧に布とレースを包んでいる間、お客様は話を続ける。

「やっぱり、十色くんに見立ててもらうのが一番安心できるわ。だって、間違いがないもの」
「光栄です」

人形は嬉しそうだ。
可愛い布とレースで纏られた洋服を着せてもらえるのだから。
だけど最近は常連さん以外はあまり来なくなっている。
理由なんて考えなくてもすぐわかる。


「いってきます」

昼間は県立の高校に通っている。
小学生も登校している時間帯に俺はいつも家を出る。
その小学生の会話は大抵人気が出ているものに偏りが出る。

「あのラスボス強いよなぁ!」
「おれはもう倒したぜ!」
「え!はえー!」

最近は専らゲームの話ばかり。
近頃は、子供の遊び道具はゲーム機になっている。
言っておくがゲーム機はおもちゃではない。
ゲーム機は機械だ。
俺のところにもゲームの修理を頼みに来る子供が多い。
今の子供達はおもちゃとゲーム機は同等なんだ。

学校でもそうだ。
俺くらいの年頃になるとおもちゃなんて眼中にもない。
携帯電話がきっとおもちゃと同等なんだろう。

「十色!」
「おう」
「お前、鞄に何つけてんだ?」
「あー、常連さんからのもらい物。手作りなんだって」

てのひらサイズの小さな人形だ。
常連さんが俺の誕生日に作ってくれたもので、せっかくなので鞄につけている。

「ダサいぞ?お前」
「なんとでも言え」

なにが悪いんだ。
お前らに人形のよさはわからない。

この世のおもちゃは機械的すぎる。
見た目に色は1色か2色。
機械の画面内はたくさんの色で溢れている。

しかし俺のおもちゃは見た目も中身も数え切れないほどの色で溢れかえっている。
おもちゃ離れの傾向が、俺の中から確実に『色』を奪っていく。
 
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