長編小説

□JOKER
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平和なニッポン国。
けれど平和すぎるが故に、ある日突然地獄が降り注ぐ。

西暦3651年、世界は王中心に回っていた。
絶対王政の時代の再来だと誰かが嘆き、その人物は後に打首刑になった。
ニッポン国から再びはじまったその王制度はどんどん海外へと進出していき、わずか10年で世界規模の出来事となっていた。
そして、ニッポン国の国土はロシアも罵るほどのものとなりつつある。
過去に存在していた世界地図は大きく塗り替えられ、過去のものは今の人にとって笑いものでしかなかった。
それは現在の王ミハエルの存在があってこそ、創りあげられたニッポン国。
しかし、そのミハエルもそろそろ王を降りる時期が来た。
次の王を選ばなければならない。


―バサッ

大量のトランプが遙か上空から撒かれる。
この中に1枚だけジョーカーが混じっている。
それを見つけ、掲げたものこそが次期王となる。
貪欲の国民たちはその大量のトランプに群がり、争う。

「クククッ」

その国民の中で唯一人、異色な雰囲気を放つ青年がいた。
その青年の手にはジョーカーと書かれた死神印のカードがあった。

「今日から俺が王だ。貴様らしっかりと従えよ」

ニィッと笑みを浮かべるその青年。
名をと言う。

「さァ、リアルゲームのはじまりだ!」

/

「王、仕事をなさってください」
「俺に命令するな。下衆が」
「し、失礼致しました!」

コップに入った氷をストローでかき回す新王、ことJ。
その左頬には星印の痣があった。
ニィッと吊り上った口元は下衆の恐怖を煽る。
片膝を突く元ミハエルの付き人は震えが止まらなかった。

「そうだ!」

何かを思いついたJ。
ピンと上に向けたストローから水滴が飛び散る。

「ロシアと戦争しよう!」
「はっ!?」
「あぁん?何だよ。何が言いたいんだ?」
「え、あ……い、いえ……その…………」
「はっきりしろよ、糞野郎」

下衆を見下すJの瞳に恐怖する。
しかしそんなJにもわかっていた。
この下衆が言いたいことが。
「せっかく平和な国を手に入れたのに、何故わざわざぶち壊すようなことをするのか」とね。

Jも馬鹿ではない。
ニッポン国は世界でもトップクラスの権力を誇る。
ロシアがニッポン国よりも衰退した今、逆らうことはない。
むしろ、頭を差し出して命乞いをすることは目に見えていた。
だからこそJはロシアを潰そうと考えているのだ。

「その……ロシアと同盟を組むというのは……」
「弱小と手を組めと?馬鹿言うな」
「は、はいぃぃぃ!」
「わかったらさっさと、ロシアを潰しに行けよ」
「はい!只今!」

そのJの命令からわずか1ヶ月後。
ロシア連邦は地図上から姿を消し、人々からの記憶からも抹消された。
またニッポン国の領土が広がった。

「クク……クククッ」

タンッとダーツが壁に刺さった。
変わり果てた世界地図。
ダーツが刺し示す、次の標的はイギリスだ。


酒を片手に満月を眺めるJ。
結局ロシア連邦壊滅のみの達成で、そのあと命じたイギリス壊滅は失敗に終わった。
気に喰わない、全てはあの下衆のせいだ。
素直に俺の言うことを聞いていればいいものを、勝手に作戦変更したがために招いた結果だった。
いつも笑みを浮かべている口元にはギリッと奥歯を噛みしめる悔しそうな表情が浮かんでいた。
王とはいえどやはりまだ餓鬼。
そうそう民を従わせるのも容易ではない。

「お、王……お目覚めでしょうか」

いつまで経っても返答のない王の自室。
下衆はおそるおそるその戸を開けた。
しかし、そこはもぬけの殻。

「王?王!どちらにおいでですか!?」

慌てた下衆は総動員で王を捜しはじめた。


「んぁ?……ふわぁぁ」

Jはローズ園にいた。
棘のあるバラが咲き誇るこの空間はJのお気に入りの場所でもあった。

「にゃぁ」
「あ?」
「にゃぁーぉ」

どこから入り込んだのだろうか。
黒い毛並みの黄と青のオッドアイを持つ猫がそこに座っていた。

「クク……」

Jは黒猫の喉元を撫でてやる。
すると嬉しそうに喉を鳴らす猫。

「クククッ」

不敵に笑うJ。
猫はそんな表情の裏を知る由もなく、腹を見せた。


「あ、王!こちらにおいででしたか!」
「あん?」

下衆が見つけたJ。
頬には赤い痕。

「お、お怪我をされたのですか!?」
「何言ってるんだよ。俺が怪我などするものか」
「はっ。申し訳ありません!……そ、それは?」

Jの右手には黒い物体。
両手とも赤で染まっている。

「お、王……?」

怖くなった下衆が震えはじめる。

「あぁ、コレ?ちょーっとかまってやったら調子に乗るからさ、殺しちゃった」

ボトッとその場に転がった黒猫の頭。
同時に下衆もその場に崩れ落ちた。
恐ろしさしか感じられないようで、股間が徐々に濡れはじめていた。

「お前も、俺に逆らったらこうだからな」

笑った口元、笑えない瞳。
相反しているものが下衆をあっさり射抜いて放さない。
 
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