長編小説

□JOKER
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ソファにくつろぐJ。
いつもの笑みは浮かんでいなかった。

「失礼します。王」

ちらっと入ってきた下衆をみるが、すぐに窓の外へと視線を戻す。

「王、本日のご予定ですが―」

ぺらぺらぺらと用件を話しはじめる。
しかし、右から左へと抜けていく。
耳に残るような、魅力的な言葉はなにひとつない。

「あ、あの、失礼ですが王、お聞きで?」
「あのさ」
「はい!なんでしょう」
「その王ってのやめてくんない?」
「はっ!しかし、決まりですので……」

決まり?決まりは王である俺の権限であろう?
なにをぬかしているんだ、コイツは。
…………ああ、そうか、わかった。

「おい、お前」
「はい!」
「俺が王だと不満なんだな?」
「はっ!あ、いや……滅相もございません!」

失礼しますと言い残し、さっさと出て行ってしまった下衆。
Jは小さく舌打ちをした。

青い空に向かって手を伸ばす。
届かないあの真っ青な空を赤色で染めあげたい。
思い出したかのようにJの口元に笑みが浮かんだ。


「さてと……」

黒猫を思わせるパーカーをかぶる。
顔の大半はそれで隠れた。
少し視界が悪い。

「人間観察でもしようかな」

この腐ったニッポン国の民共が何を考えているのか、前から興味があった。

降り立ったニッポン国。
がやがやと賑わう便利すぎる先進国の世界。
お金のやり取りもすべてがカード支払い。
歩道は全自動。
歩かなくても進む道。
歩道橋なんてものはもう存在しない。
車が空を走るようになったんだ。
すべてが変わり果ててしまったんだ。
大昔の緑の木々も、もう存在しない。
すべてがレプリカ。
偽物の世界。

「新王はなにしてくれるんだろうね〜」

ふと、そんな会話がきこえてきた。
そちらに目を向けると女子学生の集まりがあった。
Jはその集団を追うことにした。

「あ、じゃあぜーんぶ無料で物が手に入るとか!」
「あ〜いいねぇ!カードも便利だけど、やっぱりお金は減るもんねー」
「ねー!」

落ちぶれた人間。
考えることもどんどん落ちぶれていく。
落下傾向でしかないんだ。
この世の中は。
だから腐っている、とJは口にする。
便利さを求めすぎた代償は人間を弱らせるだけだ。

「つか、新王ってなにしてんの?ミハエルの時は結構姿見せてたよね!」
「あぁ〜言えてる〜。命令してるだけじゃん?」
「ねー。しかも新王って、歴代最年少なんでしょ?噂だけど」
「うわーニッポン国終わったねー」
「でも前はロシアを壊滅させたんでしょ?放っておけばそのうちなくなる国だったのに、なんでわざわざって感じ」
「だからイギリスは壊滅させられなかったんでしょ?ウケるー」
「いろいろ戦争するのは勝手だけど、国民巻き込むなよって話!」

あははははは、なんて馬鹿みたいな笑い声をあげる女子学生。

「そうか。なら終わらせてやろうか?」

はっと振り返った女子学生。
その背後に、Jの姿はなかった。


「ククク。そうか……この世は腐りすぎてるんだ」

Jはぶつぶつと何事か呟きながら反り立つ城へ向かって歩いた。
 
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