長編小説

□パーセント
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『深海』と書いて『うみ』だなんて面倒な名前をつけてくれたおかげで学年があがる度に『名前はなんて読むんですか?』『うみです』という会話を繰り返してきた。
俺的には『うみ』と読ませたいのなら『海』でよかったじゃないか、なんて思うけれど『海』という漢字でも結局は『かい』なんて読まれる可能性だってあるのだ。
結論的にはあきらめしか残らないくらいに、俺はひねくれている。

俺は授業中、窓の外から見える海を眺めることが多い。
もちろん俺が生まれた場所だから、というのは冗談で、ただ海の上を飛んでいく渡り鳥が羨ましいからだ。
人間は空を飛べない。
だから鳥を羨ましいと思うのだ。
でもそれは人それぞれの感性であって必ずしものことではない。

そもそもどうして人間と言うのは弱肉強食という言葉を生み出したのだろう。
草は草食動物に喰われ、草食動物は肉食動物に喰われ、そして頂点に君臨するのは我ら人間という動物。


放課後に1人で屋上に行く。
1日の疲れを少しだけ風に背負わせるためだったり空の青い雨を浴びるためだったり。
それから、出会いを待っていたり。

「来栖深海?」
「は?」

金髪に近い茶髪にピアス。
他にもシルバーアクセがちらりと見える。
同じ制服を着ているはずなのにどうしてか違く見える。

「だろ?なぁ、来栖深海!」

こちらに近寄ってくると俺を逃がさないようにするためなのかがしりと両肩を掴まれてしまった。
半歩後ろに引いていた足を元に戻す。

「誰ですか」
「あ、俺?俺は神楽坂寧か!よろしくな」

人懐こそうな笑顔で俺に笑いかける神楽坂と名乗る男。
この状況、俺はどうすればいいのだろうか。
助けにならない運動部の声が風と共に運ばれてくる。

「ていうか。どこで知ったんだ?俺の事」

神楽坂なんて名前の男はうちのクラスにはいなかった。
てか、こいつは俺と同じ学年なのか?
どうみても不良とつるんでいそうで女友達の多そうな容姿だ。

「あぁ」

思い出したかのように言うと俺の肩に乗っていた手を退けることなく続ける。

「A組の神楽坂寧だ。深海はC組だろ?体育とか一緒じゃん!」

と言われても覚えていない。
きっとその時間の時になんだあいつとは思うけど、その時間中だけ。
すぐに記憶の片隅に追いやられてしまっていたのだろう。

「で、俺に何か?」
「え?んー、お前面白そうだから友達になってよ」
「俺は平和に過ごしたいのでお断りします」
「そっかそっか!って、えぇぇええ!?どうして!?」

驚きあまって俺から手を離した神楽坂。
その隙に屋上から出ていく。
慌てて神楽坂も追いかけてくるため、いつもよりも早足で階段を下る。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「………」

昇降口までその勢いで行けば、すっかり息を切らしてしまった神楽坂。
もしかして俺よりも体力がないのでは?

「深海、運動するのか?」

途切れ途切れのその言葉を遮るように「しない」と言えば、さらに驚く神楽坂。
しかし喉に唾でもつっかえたのか、むせ出した。

「帰る」
「一緒に帰ろうぜ」

俺の嫌そうな顔を見て見ぬふりをして並んで歩き出す神楽坂。
ぺらぺらぺら、途切れることなく喋り続ける神楽坂に俺は相槌を打つのも面倒になる。

「そうだ。ケー番!ケー番教えてよ!」
「神楽坂。お前、見た目と中身合ってない」

俺のもやもやはきっとこれだと思う。
見た目の割に良い奴過ぎる。

「あー、俺の見た目?これね、姉の趣味」

神楽坂姉、どんな趣味しているんだ。

「はい、ケー番!」
「あ、おい!」

いつの間にとられた携帯電話。
赤外線で交わった神楽坂との関係。
返された携帯電話の電話帳には神楽坂寧の文字がきっちりと刻まれていた。

「よろしくな!」

またはにかんだ神楽坂に俺は溜息をついた。
別に、他クラスに友達が欲しかったわけではないのにできてしまった。
俺の予想外と崩れ落ちる平凡の2文字。
一生懸命に積み上げていたジェンガが支えを失って崩れるようなもの。
 
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