長編小説

□ONE MORE
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人々が現実の交流よりも非現実の交流の方を優先するようになったのはいつごろからだろうか。
気付けば当たり前のように手にはネットの配線。
無表情で腹の底から嘲笑う。
最近のネット中毒者は口を揃えて言う。

『お前、ワンモアやってる?』
『うん』

だいたいの人は「流行のゲームは?」と聞けば返すだろう、ネットゲームのワンモア。
正式名称を【ONE MORE】と言う。

携帯からはアクセスできないそのネットゲームは授業中の若者を焦らせた。
家に駆け込むように帰り、電源を押してお気に入りからログインページへ。
そして画面に映し出されたログインページにほっと息を吐く。

簡単で素朴で単純なそれに6桁のパスワードを入力する。
利用者に第二の人生を与えるその魅力的な場所。
6桁のパスワードを入力すると現れるエンターの文字。
それをクリックすれば『管理人のニカ』が出迎える。

新規登録はログインIDとパスワードの入力のみ。
その他はログイン後設定される仕組み。
アドレスを不要とするネットゲームは誰でも簡単に登録でき、そこに登場するアイテムはすべて課金制度なし。
自力でなんとかしていくものでさらに人々を夢中にさせた。
セキュリティは万全な天才的なネットゲームはニュースにも取り上げられた。

/

「荷華ー、飯持ってきたぞー」
「ありがと、詩」

まるで玩具屋のような広い一室の中央に置かれたソファに身を沈めている荷華と呼ばれた青年。
その手にはニカの人形が握られている。

「新しいアイテム思いついた?」

詩が食事ののったお盆をガラス貼りの机に置く。
そのすぐ側には多くの電子機器が所狭しと置かれている。

「全然思いつきませんよー」

ぽいと手に持っていたニカ人形を投げ捨て、食事に手をつける。

「うひゃ、なんかほひいアイテムある?」
「何言ってるかわかんないよ。行儀悪いから食べるか喋るかどちらかにしろ」
「詩、何か欲しいアイテムある?」
「アイテムかぁ……あ、ユニコーンが欲しいな」
「ユニコーン?詩、カラス持ってたでしょ?」
「ユニコーンは放し飼い」
「まぁ、いいけど」

荷華は慣れたように電子機器を起動させる
そして【ONE MORE】の編集をはじめる。
そう彼こそがこの【ONE MORE】を創った『管理人のニカ』なのだ。
本名は成嶋荷華。
その幼馴染の蕪木詩が操るキャラクターはランキング1位の『CROW』
カラスをモチーフにしているが、どうしてか気の弱そうな雰囲気が伝わってくる。

「どう?ユニコーンクエスト」
「今日中にもらえそう」
「頑張れ」
「うん」

今日も新規登録者は増え続ける、かなり中毒性の高いゲームは他の誰でもない荷華が一番はまっていた。
 
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