長編小説

□世界は『僕』を不幸にする。
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第一章/小年シンドローム


僕の名前は常盤悠人。15歳の中学3年生。
学校は県内でも有名なほど規則が厳しい学校。
家から近かったから僕はそこへ放り込まれた。

規則が厳しいと聞いても人それぞれだと思うから説明しよう。
1、私物は全て共通
1、名前はきっちり全てに名前を記入
1、制服は第一ボタンまで留め、ネクタイも上まできっちり締める
1、掌にかかる袖はかからないようにする
1、上履きの踵は踏んでいたら新しい物に買い替える
1、眉に前髪はかかってはいけない
1、耳に髪をかけてはいけない
1、耳に髪がついてはいけない
1、襟足に髪がついてはいけない
1、廊下は右側通行
1、朝のHRは8時30分が原則
1、遅刻をしてはならない
1、一人称は『僕』『私』とすること
1、挨拶をきちんとする
1、鉛筆、消しゴム、赤ペン以外使ってはならない
1、ノートと教科書は指定されたものを使う
1、テストは80点以下をとったものは補習とする
1、生徒手帳は常に身に着けること

等、僕が記憶しているのはこの程度である。
生徒手帳をみればもっと詳しく書いてある。

だからこの学校に通う生徒は皆『優等生』なのだ。
先生たちも規則を守るため誰も破る者はいない。
規則を破れば通称『拷問室』という教室で説教される。
もちろん、親同伴だ。

そんな学校は酷くつまらない。
授業中余所見をしてはいけないのでただ黒板と先生を見る。

「常盤さん。ここの答えは何ですか?」
「はい。±3です」
「正解です」
「ありがとうございます」

あてられればこの会話だ。
わからなければその時間授業は立って受けなければならない。
だから必然的に予習をするようになる。

僕はこの学校でも『利口』だ。
学校で択ばれた生徒のひとりをしている。


「ただいま」
「おかえり、悠人」

家に帰っても両親は僕に『学校は楽しいか?』等と言う質問はしない。
そんなもの聞くまでもなく『面白くない』の選択肢しかないからだ。
だから家では両親のその日の出来事の他愛もない話をする。
僕の弟は来年、その中学校へ通うことになる。
僕が言えることはただ『頑張れよ』の一言だ。

「悠人、高校はもう決めたのか?」
「目星はつけているよ」
「受験するのか?」

この『受験するのか?』という意味は規則の厳しいあの中学は一応高校も備えつけている。
けれどその学校へ進学する者は半分程度。
残りは別の高校を受験していく。
だから父は聞いたのだ。

「うん。受験をするよ」
「そうか。好きな所を受験しなさい」
「ありがとう」

僕はもう決めていた。
今の中学とは真反対の所に位置しているある高校を。
僕は残りの中学生活をその『高校』という自由を求めてただ規則正しく生きていく。



中学生活で『中学の友達』ができたのは必然だ。
その場しのぎの友達ごっこ関係。
僕もまた『友達』をつくって中学校を楽しそうに過ごす一員。
そしてそんな僕の友達の名は秋田誠太郎という。

誠太郎は勉強よりも部活動に力を入れる青年でいつもテストの点数はギリギリラインを越えたり越えなかったりである。
ちなみに部活動は野球部に所属をしていて背番号は4番らしい。

「悠人!」
「誠太郎」
「おはよう」

廊下を少し小走りで僕の元まで来る誠太郎。
見慣れた絆創膏が今日も彼に貼られている。

「おはよう」

僕と誠太郎を知るクラスメイトはよく口にする。
『誠太郎と悠人ってなんで仲良いの?』と。
友達になるのに違和感はよくあるものだ。
例えば顔はイケメンなのにつるんでいるのはオタク系男子だったり、見た目はすごくイケイケ系なのに中身は裏を返したようにおとなしかったり。
僕と誠太郎もそれだ。
僕は冷静沈着で誠太郎は明朗快活。
人々からすればそれがすれ違いの一点らしい。
でも友達って人によって線引きが違うと思うから、本人たちがよければそれでいいと、僕は思う。

「あれッ、やっべー!教科書忘れた!」

教室について早々、誠太郎の大きな声が響く。
みんなが誠太郎に注目して笑う。
彼には人を楽しませる『才能』があると思う。
誠太郎はくるりと僕の方を見てはにかむ。
僕はそれに小さく笑い返す。
きっと今日の授業、彼は立ったまま受けることになるだろう。

/

「中学生活も残り僅かになりました。今日はみなさんの進路について話をします」

どこかの講師が入ってきて長々と語り出す
僕はそれを聞いているフリをする。
だいたい、話をしっかり聞いても、聞かなくてもその人の将来なんて明白にわかりはしないのだから意味がないのだ。

「では、感想を。常盤さん。代表してお願いします」

各クラスに一名、優等生は配属される。
学校内の暗黙の了解だ。
こういった時、はっきりものを言えるやつを当て易くするために。

「はい。本日は僕達の為にありがとうございました。まだ将来というのははっきりわかるものではないですが、高校生という将来への新しい一歩を失敗しないよう今からできることに最善を尽くし、日々を充実に過ごす努力を怠らない。そうした中で僕達自身がすべきことの発見につながるということ、胸に刻まれました。勉強になりました。ありがとうございます」

ここで深々と頭を下げる。
講師の大きく力強い拍手につられクラスメイトも拍手を送る。

「いやぁ!素晴らしい生徒さんだ!君の名前を聞かせてくれるか?」
「はい。常盤悠人と言います」
「常盤くん。将来が楽しみだ」
「はい。ありがとうございます」

もう一度深々と頭を下げて、腰を下ろす。



「悠人はやっぱすげーなぁ!」
「すごい?なにが?」
「あんな綺麗な感想がすぐに出てくることさ!」

掃除の時間、誠太郎は手を動かすことを忘れ楽しげに喋る。
僕はその横でせっせと手を動かしながら静かに話す。

「顔色を窺うことは得意でね」
「お前、本当に中学生か?」
「中学生だよ」
「なんか、宇宙人みたい」

にひひと笑う誠太郎。
僕からしたら君の方がよっぽど宇宙人だけど。

「悠人、もう将来決まってるの?やっぱり政治家とか?」
「将来?決まってないさ」
「じゃあ絶対政治家だな!」

彼は政治家のなり方を知っているのだろうか。
僕もすぐに政治家とは何かと聞かれても思い浮かばないのに。
僕はその場しのぎにただ小さく笑うだけだ。
 
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