長編小説

□complex
2ページ/23ページ


プロローグ


この物語は、彼らがそれぞれ背を向け合って、それぞれが想い、理想とする世界とはかけ離れた世界で当たり前のように生きている話である。

例えば、彼は目を閉じ、真っ暗な世界で怯えて再び目を開けたり。
例えば、彼は美しいものの香りを体内に取り込み、楽しみ、自身のものにしたり。
例えば、彼女はボリュームマックスの世界の音を遮り、自分の好きな音だけを聴きたいと我が儘を言っていたり。
例えば、彼女は好きな場所に留まり、同じものばかり口にして幸せに包まれていたり。
例えば、彼は寂しさを紛らわせる為に、自分に仮面をつけて振る舞ってみたり。

人間としてあるべきものを否定するのは、人間だから。
ありがたいと本気で思えた時、それはきっとどれかを失った時。
でも、そんなことすら気付かない人間はとても愚か者なのだろう。
塀の上で眠る猫もきっと、人間を見下して「滑稽滑稽」と哂っていることだろう。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ