長編小説

□河川敷のダンデライオン
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「お嬢様!お嬢様!どちらにおいでですか、お嬢様!」

女中が朝霞家中を朝早くから駆けずり回る。
無論そこの次女、きいろの姿が見えないからだ。

居間では父の清厳と長女のあかねがきいろを待っていた。

「ったく、あいつはこんな大切な日まで一体どこをほっつき歩いているんだ」
「うふふ。きいろらしくていいですね」
「いいものか。少しはあかねを見習って女らしくできないものか」
「あら、きいろだって女の子らしいですよ。それにお父さん。女とか男とか、もう古いですよ」
「ふん!」

襖の向こうからすっと扉が開いた。
そして女中が一言「夜久城様がいらっしゃいました」と頭を下げた。

「仕方ない。あかね、先にご挨拶をすることとしよう」
「はい。お父さん」

清厳とあかねは女中と共に、客室へと向かった。



「ああ、清厳様。久しくお目にかかります」
「そう畏まるな。新葉も変わりないようだな」
「はい」

穏やかな顔つきの夜久城家の長、新葉。
そしてその傍らに控えるのはこれから朝霞家の側近として働く、夜久城家の兄弟。

「こちらが兄の糸瀬と弟の希成です」
「糸瀬です」
「希成です」

それぞれが頭を下げる。
それを見てから清厳も傍らの姉妹を紹介する。

「こちらが姉のあかねです」
「あかねと申します」
「それから妹なのですが……」
「そういえば、お姿が見えませんね。どうかされたのですか?」
「いえ、それが……」

清厳は溜息をつき、あかねもくすくすと笑った。
そして、ちょうどバタバタと足音がこちらへ近付いてきた。
客間の襖が大きく開かれ、高らかに肩に担がれたきいろが姿を見せた。

新葉も糸瀬も希成も驚きを隠せない様子で、肩に担がれ、こちらに尻を向ける女を見上げた。
さっと襖を開けた男が膝をつき、静かに襖を閉め、肩に担いでいたきいろをおろす。

「えー、この子が妹のきいろです」

気を取り直して清厳が言う。

「遅くなって大変に申し訳ないです。ほら、きいろ。きちんと挨拶しなさい」
「嫌です。なんでこんな男らに頭をさげなきゃいけないんですか。きいはなにも頼んでません」
「きいろ!こんな時くらいきちんとしなさい」

ふいっとそっぽを向くきいろに、兄の青佐が遠慮なく後頭部を床に擦りつける勢いで押す。
力の差には勝てないきいろはされるがまま頭をさげた。

「ま、まあ、あとは子供らに任せましょうか」

新葉は見ていられなくなり、そう提案する。
清厳も同意し、きいろ、あかね、糸瀬、希成は別室へと移動した。
 
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