長編小説

□青空と君と僕
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鼻血で汚したタオルを保健室に忘れてきたと気付いたのは翌日だった。
昼休みに取りに行くと、先生が洗濯を終えた状態で返してくれた。

「ありがとうございます」
「次は気を付けてね」

先生の優しい笑顔を尻目に、保健室内を見渡す。

「もしかして昨日の子をさがしてる?」
「!」
「君、わかりやすいねぇ」

くすくすと口元を隠して先生は言う。

「そこのベッドを使ってるよ」

やはりあのカーテンで囲われたベッドがそうだったのか。

「会って行くかい?」
「会えるんですか?」
「たぶん起きてると思うよ」

先生はカーテンを引く。
確かに体を起こしているように見えた。
なにかを喋って、ベッドから出てきたその人は相変わらず天使のように美しかった。

「昨日の。鼻はもう平気?」
「は、はい!昨日はありがとうございました」
「僕はなにもしてないよ」

くすっと笑ったその人の一人称に引っ掛かる。
僕?

「どうかした?」

きょとんとした俺に不思議そうに問いかけてくるその人。
制服は俺のと同じ男子生徒用だ。
ということは、この天使みたいな美しい人は男?

「え、嘘」
「?」

頭の中が一気に沸騰するような感覚になる。
そして鼻がむずむずとした。

「あ、鼻血」

その人がそう指摘する。
確かに、指先に血がついた。

「よく鼻血出すねー。昼休み終わるまで休んでいきな」

先生がティッシュを用意してくれて、そのまま椅子に座る。
その人も俺の向かいに腰掛けた。

「君たち自己紹介でもしておいたら?」
「ああ、そういえばしてなかったね。まさか2度も会うとは思ってもみなかったし」

くすくす笑うその人はきちんとこちらを見て言った。

「白築一颯です。よろしくね」
「六瀬秋晴です。1年4組のバスケ部です」
「六瀬くんはこれから保健室の常連になりそうだね」

先生は笑って言った。
鼻血はすぐに止まった。
 
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