長編小説

□青空と君と僕
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「あ、秋晴ー。昼休みどうしてたの?戻ってこなかったじゃない」
「ああ、鼻血出たからそのまま休んでた」

教室に戻った俺は早速桐吾に笑われた。

「なんで鼻血出すの?転んだ?」
「違うよ、なんか……のぼせた?」
「のぼせた?一目惚れでもしたの?」

一目惚れ。
その言葉に今の俺の身に起こっている出来事にしっくりくると感じた。
暫し瞬きを忘れていると、ひらひらと桐吾が目の前で手を振った。

「平気?そんなにいい人なの?」
「あ、ああ。天使みたいな人だよ」
「ふふっ」
「だから笑うなよ!」

腹を抱えて笑う桐吾だったが、チャイムと同時に入ってきた先生が声を掛けるとすぐに笑うのをやめた。
たぶん馬鹿にしている笑いではないのだろう。
部活はじまる前に詳しく聞かれるのかな?
いや、桐吾に限ってそんなことはしないだろう。
他人にさほど興味がないのだから。彼は。


放課後になり、桐吾が「何組の子?」と聞いて来た。
どうやら俺の勘は外れたらしい。
楽しそうな雰囲気をまとい、真剣な顔で聞いてくる。
そこで俺は鞄を肩に掛けながらそういえば知らないなと思った。

「名前は知らないの?」
「名前は白築一颯くんって人」
「ふぅん?」
「知ってる人?」
「知らないね。この学校、学年の人数も多いし、クラスだってわからなければたったひとりを捜すの大変だよ」
「確かに」

俺達は4組に所属しているが、1年生だけでも10組存在する。
しかも、1組から5組が5階で6組から10組が4階という配置になっているため、たぶん3年生になっても見知らぬ顔の人もいることだろう。
しかも白築が同じ学年だとは限らない。
どうしてこの学校は学年ごとに色が違うという配慮がないのだろうか。

「学年がわからないってことはー……」

桐吾が腕を組んでなにかを考える。

「あ、その人が頭がよければ学年順位、貼り出されてるんじゃない?ちょうど中間試験の結果も出てるでしょ!」

俺は見る必要がないのをわかっていたから見に行っていないが、確かにないとは限らない。
少し遠回りになるが、俺と桐吾は貼り出しされる掲示板がある廊下を通って行くことにした。


貼り出しは上位50名。
とりあえず1年のところを見てみると、桐吾の名前を発見して次の試験は頑張ろうと思った。
しかし1年のところに白築一颯という名前はなかった。
続いて2年のところを見はじめて、一番上にその名前があることに気付く。
そして獲得点数を見て驚愕した。

「「ま、満点!?」」

さすがに桐吾も一緒になって驚いた。
主要5科目の点数のはずだが、何度見直しても500点だ。
なにをどうしたらそんな点数が取れるのだろう。

「でも、先輩だってことはわかったね」
「うん」

てことは、俺次はきちんと先輩をつけて敬語で話すべきだな。
そう納得して、俺は桐吾と共にいつもより少し遅めに部室へと向かった。

/

「今日は彼来ないね」

保健室で先生が資料の角を揃えながら言った。
ベッドの上で読んでいた本に栞を挟みながら白築は「お気に入りなの?」と聞いた。

「いやぁ!だって彼、完全に君に惚れてたでしょ」
「嫌味?」
「そうだけど?」
「いい性格していますよね、先生。いつもそうしていればいいのに」

白築はとても綺麗に微笑む。
まるでお面でも貼り付けたように。

「先生がみんなに優しいのは保健医だからだよ?」
「知ってるよ。下心があるなら、この学校の女子は生理をわざわざ先生に言ってこない」
「まぁ先生は生理で興奮しないしね」

ギッと椅子が鳴って、こちらを歩み寄ってきた。
カーテンの隙間から先生が白築を見下ろす。
白築の白い肌に影が落ち、青白く見える。

「先生は他の誰よりも君に恋をしているからね」

先生の唇が白築の瞼に落とされた。
 
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