長編小説

□31日間の自分戦争
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これは私が自殺しようと決めた日から自殺する日までの話です。


ミーンミンミンミン

蝉の鳴き声が四方八方から聞こえてくる。
空は青く、白い雲が竜巻のように立ちのぼる。
季節は夏。私の嫌いな季節。

夏休みに入って一週間が経った。
今日は八月一日。自殺しようと決めた日だ。


歩道を歩く。
どこもかしこもコンクリートで固められ、強い日差しの照り返しにうんざりする。
私は人より肌が白く、余計に日焼けを気にする。
お年頃とかじゃなくて、日焼けした後が大変だから。
すれ違った散歩中の犬も暑そうで、項垂れるようにして舌を出している。
ただ老犬だったのかもしれないが、暑いのはみんな同じだ。

小さな公園を突っ切って、更に行くと工事中の現場が見えてくる。
黄色いヘルメットと大きな重機が汗水たらして働いている。
ここには真新しく家が建つらしい。
つい先日まで……なんだったかな。
なにかがあったけど、もう記憶の隅にも残ってない。

その工事現場を過ぎて、更に歩いていく。
すると急に人通りが減る小道に出る。
住宅街は道が狭く、車もあまり通らない。
急に電柱にとまっているカラスが鳴いて、ようやく気になる音がする程度。
それほどこの場所は大通りに比べると静かだ。
蝉の鳴き声もさほど気にならないから、私はこの道が好きだ。

そして、工場地帯が見えてくると、一棟だけ廃れたビルが建っている。
工場と工場の間にひっそりと建っているようなビルだ。
そこは立ち入り禁止の黄色いテープがはられている。
しかし雨風にうたれたせいか、外れかかっている。
小汚いチェーンをくぐれば、簡単に人が入れる簡素な立ち入り禁止空間。
これだと学校の屋上の方が厳重に入れないようになっている。

埃っぽい建物の中。
たまに異臭がするからたぶんネズミもいるのだろう。
ひび割れたコンクリートの道とあちこちにある瓦礫の山。
いつ崩れるかわからない階段をひたすらのぼる。
当たり前だがエレベーターは機能していない。

屋上の扉を押し開ける。
わっと広がる青空と白い入道雲。

そしてここが私の死に場所だ。
 
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