長編小説

□31日間の自分戦争
3ページ/33ページ


八月二日。

朝はよく晴れていたが、お昼頃から空が曇りはじめた。
風も強く一雨きそうだ。
屋上で錆びれたフェンスの前で私はそう思った。
腰まで伸ばした長いストレートの髪はもう収集つかず、メデューサ状態。
制服のスカートもマリリン・モンローのように上へあがりたがるようだ。

私は仕方がなく廃虚ビルの中へ戻る。
押されるように扉が閉まると、少しして雨音が聞こえてきた。
階段に腰掛けて、雨くささに眉根を寄せる。
少しして睡魔に襲われ、目を閉じると素直に意識は暗闇へ沈んでいった。


「ねぇ、君」

誰かに肩を揺すられている気がする。
夢なのか、そうでないのかまだ判断がつかない。
夢の中のリアルな色の飽和した世界の出来事と、私に起きている現象がリンクしているみたい。
しかし止まらない揺れに、しばらくして目覚める。


「よかった、目を覚まして」
「…………誰」
「俺?俺はイズホ」

肩にかかる髪がイズホと名乗った男が動くたびに、さらさらと川が流れるみたいにして揺れる。
それに少しだけ目を奪われる。

「それにしても、女の子がこんな廃虚でなにしてんの?」
「雨は降ってなかったの?あなた、濡れてないみたいだけど」
「雨は降ってないよ。さっきやんだんだ」

雨が、やんだ。

私はそれを聞いて立ち上がる。
そして屋上へ続く扉を押し開ける。
背後からイズホが手を貸してくれて、あっさり扉が開いた。
青空は薄く黄色を帯て、夕焼けに染まろうとしていた。
随分時間が経っていたようだ。

「ねぇ、君の名前は?」
「けいか」
「けいかはここでなにしてるの?」
「死にに来たの」
「へぇ?じゃあ、俺と同じだ」
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ