長編小説

□リミット・チルドレン
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町の一角にある青い壁の家にサンドバイムという名の家族が住んでいる。
サンドバイム家には父と母と一人娘のミーと愛犬のアーマンドがいる。
ミーは今年13歳になる。もう立派なレディだ。
父と母は若々しく、2人とも外に働きに行く。
町の人から言わせれば働き者だった。

朝は早く、夜も遅いため、ミーはいつも家でアーマンドと2人きりだった。
いつの間にかミーは家事や洗濯をそつなくこなし、疲れて帰って来る父と母はしっかりしているミーに頼りきりになっていた。
ミーはいつでも寂しい思いをしていたが、父と母は気付きもしなかった。
少し前まで学校に通っていたが、とても優秀だったミーはすでに必要な教育は修了しているため、家でたくさんの難しい本を読んでいた。
たまに町に出ると、学校に行けない子供に勉強を教えることもあった。
お駄賃の代わりにもらう手作りのお菓子はどれもこれも絶品だった。
どれだけたくさんのお金を持っていても、味わえない代物だとミーは寂しく笑った。

ミーはお金を持っている家の子だと、ミー自身がよくわかっていたが、ミーの家には愛情がちっとも感じられない。
毎年季節ごとに新品のシーツで眠れるのは幸せだ。
汚れたカーペットはすぐに新しいものに買い替えられる。
子供っぽいカーテンだってすぐに大人っぽいものに替えられた。
でもそれは物を大事にしていないのと同じことなんじゃないかって、町で過ごすたびに感じていた。
町の子供は寄り添って、毎日同じような服を着て、汚れてもまだ着れると笑っている。
ミーは同じものを着回すのは滅多にないことだった。

それにアーマンドを飼っているのはすごいことらしかった。
動物を飼っていたとしても、鶏や山羊、羊、牛などが一般的で、犬や猫というのは娯楽の一環らしいのだ。
でもアーマンドは利口で町の人達には可愛いと愛されていた。

そんな表向きの幸せの中、いつも通り夕方にミーは自宅に戻った。
町で美味しそうな新鮮な野菜をたくさん買えたので、今夜は野菜スープを作ろうと思っていた。
冷蔵庫に厚切りベーコンが残っていたからそれも入れたらきっと美味しいだろうとスキップをしはじめそうになる。
しかし、家に帰ると珍しく電気が灯っていた。
ミーはそっと家に入り、リビングを覗く。
そこにはいつもならいるはずのない父と母がいた。
ミーはぱっと笑顔をつくり、リビングに駆け込む。

「おかえりなさい!今日はとても早いのね!」

いつもなら父と母はミーがいれば大好きだと言って抱き締めてくれる。
しかし父も母もまるでミーの声が届いていないようだった。

「パパ?ママ?」
「ミー……これからどうやって生きて行きましょう」
「え?」
「仕事がなくなってしまったんだ」

何を言っているのかよくわからなかった。
かいつまんで言えば、町の外にある会社に父と母が勤務する会社が買収されてしまったそうだ。
それはもっと会社が大きくなるためのことだからいいことらしいが、会社の所在地が町の外に変わるらしい。
それはつまりこの町から出て行かなければならなくなるのだ。
そうすれば生き難くなるのは間違いなかった。

「死に怯えて生きるなんて私は絶対に嫌だわ!」
「そんなの俺だって同じさ!畜生……なんでこんな目に……」
「町の中にも他に会社はいくらでもあるでしょ?」
「なにを言っているの、ミー」

母は目をぎらつかせてミーの小さな肩を強い力で掴んだ。
ミーは思わずひっと声が漏れた。

「この町の会社はほとんど低賃金なのよ?生きていく中で必要最低限の収入しか得られないのはつまり綺麗なお洋服だって買えないってことよ?アーマンドだって飼えなくなるわ。それでもいいの?」

ミーはいいよって思った。
でもきっと今それを言ったら父も母も発狂してしまうかもしれない。
13歳のミーには働き者の気持ちまで理解しきれずにいた。
 
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