長編小説
□Beauty Beast and Man -グレイス・ビターと美しい獣より-
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雨が降っていた。
足元を流れていく雨水はどうにも赤い。
それは手の中の魔獣を通しているからだった。
大事にしてきたものが一瞬で奪われる。
消失感と絶望感を同時に味わったのは初めてだった。
雨水に濡れる頬のおかげで、流した涙は誰にも気付かれずに済むだろう。
だからどうか今だけは雨が降り止まないことを願う。
誰しもが欲し、誰しもが扱えず、名前のない孤独の中を生きた美しい魔獣と、孤高の天才魔獣師の愛情にまみれた契約という名の不自由。
グレイス・ビターは言った。
「ジーク、君を愛していたよ」と、墓石の前にそっと花を手向けた。