長編小説

□Beauty Beast and Man -グレイス・ビターと美しい獣より-
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「またか……」

魔獣専門機関管理課の課長、ルドルフ・カタロスが深い深い溜息混じりに呟いた。

「これで何度目だ?」
「3度目……ああ、今回で4度目になりますね」
「4度目……」

意識的に眉間に寄った皺を親指と人差し指を使って揉み解す。
感じた頭痛は気のせいだと言い聞かせる。

「優秀な人獣ってなんだ。契約する魔獣師にまで牙を向くようなら莫迦と変わりない」

管理課に届いた死亡通知書。
討伐課所属だったAランクになったばかりの魔獣師だ。
原因は契約していた人獣に心臓を一突きされたことによる失血死。
また貴重な高ランク魔獣師が魔獣ごときに命を落としたのである。

「莫迦とは物言いですよ、カタロスさん」

足音を立てず、優雅に歩く長身の男はルドルフ・カタロスの机にあった死亡通知書を手にする。
魔獣師の情報が載った方ではなく、添付されていた契約する人獣の情報を開く。

「魔獣師が下した命令に対して人獣はとても忠実さ」
「お疲れ様です、グレイスさん」
「お疲れ様。これ、報告書ね」
「はい、承りました。それと、あの、イロバくんは?」
「死んだよ。体は持ち帰ってきたから今頃監察課にでもあるんじゃないかな?」
「死んだって……え、グレイスさん魔獣狩りに行かれたんですよね?」
「行ったよ。たった今君に報告書提出したじゃない。まぁイロバが死んだから結局僕が相手する羽目になったけどね。お陰でいつもより遅くなってしまったよ」

この男、グレイス・ビターはなんでもないふうに話しているが本来なら人獣を従えない魔獣師が魔獣を相手にするのは相当な技量が必要となる。
戦闘センスも必要不可欠になるためAランクの魔獣師であってもチーム編成をして討伐に向かうほどだ。
その労力をできるだけ最小限にしようと取り入れたのが人獣の契約と起用である。

そして今回の問題が人獣が契約主を誤って殺してしまったというものだ。
その問題となっている人獣はかつて3人の魔獣師を手にかけている。
人獣のランク的には是非様々な場面で起用していきたいが、従わせる魔獣師がいなければ利用価値すらない。

「ふぅん、ジークねぇ……Aランクになったばかりの魔獣師には扱うのは難しそうだね」

しばらく紙を見たあと、グレイス・ビターはなにか閃いた様子でぱっと笑顔になる。

「そうだ!僕の新しいパートナーにしよう!」
「はぁ!?よせよ、グレイス!死にてぇのか!?」
「僕は自分の技量を見誤ったりはしないよ」
「そりゃあ……そうだが、こっちとしてもグレイスを失うわけにはいかねぇんだよ」
「はははは。僕だってただの魔獣師さ。いつかは死ぬんだ。だったら今のうちに素敵なものと関わっていかないと損してしまう」

机に紙を置き、グレイス・ビターはロングコートを翻す。

「どこに行くんだ?」
「ジークのところだよ!早くしないと他の誰かに取られてしまうかもしれないからね。僕は欲しいものは手に入れないと気が済まないんだ。さっさと契約してしまうよ」

片手をひらひらとさせ、挨拶をする。
他課の課長相手だが臆する様子は微塵も感じられない。

「グレイスさんって、かっこいいですよね……」
「マイペースなだけだろう」

ルドルフ・カタロスの手に渡された討伐報告書と死亡報告書。
グレイス・ビターの几帳面な字体に悲嘆する感情は見受けられなかった。
 
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