第一編
□昭潤と悠
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昭潤はこっそり宮殿を出て街中を散策していた。勿論、お忍びなのだから王の服装ではなく、貴族が普段着るような服を着ている。
宮殿の喧騒を抜け、一人気ままに歩いていると、彼の目線の先に、何やら困った顔をして慌てている2人の女性がいた。
「そこの娘、何か困ったことでも?」
「あ、その…旦那様から頂いた、奥方様の形見の髪飾りを落としてしまって…。とても大事なものなのです…!命の次にと言いたいくらいの物で…。」
「それ程大切なものなのか…。よし、それならば私も探してやろう。」
「えっ!良いのですか?」
「あぁ、探し物くらい、私だって出来るし、それに、困っている民を助けるのは、国を纏める者としての当然の務めだからな。」
「はぁ。」
「早く探そう。日が暮れてしまう。」
「そうですね!」
昭潤は、物を失くした2人よりも黙々とその髪飾りを探していた。だいたい1時間程経った頃、漸く髪飾りは見つかった。
「ありがとうございます!これで、安心して屋敷に戻れます!」
「そうか、そうか!喜んでもらえて余も嬉しい!ところで…そなたはどの屋敷の者だ?」
「尹様の屋敷の者です。色々あって、尹様の養女として屋敷に住んでおります。」
「大龍先生の屋敷か!して、名は何と申す?」
「尹 悠和と申します。元々悠だけだったのですが、尹様に名付けていただいたのです。」
「そうだったのか。ほぅ…悠和とな。なかなか良い名を付けてもらったな!その名、大切にするが良い。あ、そうだ!ここは余も名乗らなければな。我が名は、劉 昭潤だ。」
「劉 昭潤様…。」
「覚えておかなくても良いぞ。礼儀で名乗っただけだからな。」
「いえ、大切な髪飾りを共に探して下さった恩人の名を忘れるわけにはいきません。いつの日か、その御恩をお返しできればと思っております。」
「しっかり者だな。そなたの好きにせよ。では、余はそろそろ戻らねば。今頃、皆大慌てで余を探しておろうなぁ…はははっ。」
そう言うと昭潤は、宮殿のある方角へと歩いていった。
「不思議な人ね…。そう思わない?明。」
「私もそう思う。あ、そう言えば、所々おかしな所があったのだけど…。」
「それは?」
「於羅瑕しか使えない一人称を使っていたところ。余は〜だって。」
「あ!確かに!使ってた!まさかね…?」
「だよね…?」
「まあ、とにかく屋敷に戻ろう。皆心配しているかもしれないし。」
「そうね!」