CP9小話
□秒読みの鼠狩り
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W7の船大工の噂は島以外にも広がっている。そのため、査定に訪れる海賊のうちにはない頭で考えたであろうずる賢い策を労することがある。船の修理諸々を終えていざ支払いとなると、期日ぎりぎりまで表れず、ようやく姿を見せたかと思えば船長を欠いた海賊が数名。今回はその類だった。
「船までどのくらいだ」
「やつらが出港するまでに10分として、わしが行くにはちと時間が足りんな」
体技を使ってしまえば早いのだが、と、内心呟きつつそれができないことは理解している。あくまで建造物に足をつけているから、空を跳ねてしまったら余計なことが起こりそうだし、なにより不要に暴れた海賊たちのせいで納期寸前だった品に傷がついた。修理すればすぐに元に戻る。だがすべてに完璧を求める職長が担当していたのは運が悪い。頭を掻くわりにのんびりと海賊たちのいる方向をみる同僚の背後で殺気が漏れていた。
「ま、フランキー一家にとられりゃまだマシか」
「いや、その必要はないかもしれん」
仕事ほど完璧さをみせる男がひそかに暴れたそうに見えて、つい、そんなことを口走る。頭上に疑問符を浮かべていそうなので、実に単純なことを声に出す。
「ルッチ、ちょいと良いか」
あくまで仕事上の付き合い。同僚としての接し方。動かない表情を読み取るくせ。すべて知っている。だから普通に、名を呼んだ。
「お主なら、わしを投げるくらい容易いじゃろう」
鳩が驚くようなしぐさを取る。羽を器用に広げて、何言ってんだお前、というような表情までしてみせる。この鳩の表現力はいったいどこから来るのかがよくわからない。
「わしの脚では少々距離が足らん。タイルストンは作業中じゃ」
とん、とつま先で地表をこつく。彼の瞳があきらかに真実ではないことを見抜いていた。本業ならばいざ知らず。このような甘えは拒絶される。けれどここはそうじゃない。
仕事でやっている。ただそれだけの場所だ。
「飛びすぎて落ちるなよ」
「わかっとる」
了承を得る。ぐっと背筋を丸めて衝撃に備える。これで距離と時間に余裕ができた。問題はこの男がどこまで本気で了承したか、という点である。
影から覗いた、互いの口元は弧を描く。海賊どもに申し訳ないなと思った。