CP9小話


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140〜300文字程度のもの。タイトル≒題材



部屋には果実、一人と一羽。「 貢物?」「ゴミの間違いだろ」紫黒の真珠を1粒、かじれば甘い。「食わねばゴミじゃな」ひと房に手は届かない。欠けた紫黒の一粒を盗られ、歯を立て咀嚼して見せると、指の果汁を舐めとった。「好きにしろ」主を欠き音のない部屋で、次は飴玉のように転がす。溢れた果汁が喉を焼いた。

(二強/果実/毒)




生物の動きすらもここではわかる。染みついた獣の習性と動作に目が慣れたせいだ。「いつまでもつかねぇ」「貴様よりは早そうだ」見下ろす森の中で風が生きている。不規則な音を鳴らして獲物を狩りとっていく。「負けねぇさ。てめぇにもな」最後の一人を狩り終え、答えは一つになる。「勝ってからほざけ」見上げている視線とかちあう。唇が、弧を描いた。

(麒麟CP9配属前最終任務/年上二強)




海の音を聞く。静かに心を宥めてくれた。腰かけた周囲は赤く広がって色が増えている。「次はいつかのう」船一つない水平線に問う。答えはない。「次はねぇだろうな」「そうかのう」それは、いやだなぁ。「でも楽しかったろ?」数秒の間があって、唇は動く。「ああ、とても」とても、悦かった。醜くゆがんだ笑みをした。

(麒麟/狼/ER戦勝利後設定)




夢を持てば最後は堕落だと、教えられた。最後の出港を告げる汽笛がする。傷の癒えぬまま任務なんて慣れていたし、瓦礫の山に変わった宿りに意味はない。だから余計なことを考えてはいけない。窓の外に同僚の姿が映ろうと、心を乱せばすべてが終わる。影の深まる姿に同調して、じくじくと傷の痛みが増した。

(1-1 side:K)




元から関係はない。任務を遂行する上で必要だった。それだけの間柄。時には噛みつき、いがみ合った。そうだ。それだけだ。ああ、せいせいする。あの整過ぎた顔を見なくて済む。忌々しい。だから、早く。早く。はやく、お前も来い。新たに滲む血の匂いが不快で仕方ない。確かな汽笛の音が最後の時を告げていた。

(1-2 side:J)




落ち着きのない野良犬が視線をよこす。どうした。もう勝負はできん。お前の勝ちだと言ったはず。最後の勝負は引き分けた。それを奴が良しとしないことは知れている。一撫でした愛鳥に短く告げる。すれば羽を広げて飛び立ち、わずかな重みが消えた。これでもう何もない。心置きなく、血を魅せられるだろう。

(1-3 side:R)

(ER戦敗戦後非逃亡設定/三強)

2018/03/19



褒められる嬉しさをその日初めて知った。褒められた分だけ褒美があった。きらきらと手のひらに転がる小さな色玉はどんなものよりもきれいに見えた。ガラス瓶の中で様々な色と混ざり、光を通す色の変わりようは夜のない島では一層映えた。けれど。いつのまにか色玉は濁ってしまった。なら、捨てなければ。次に濁るのは、自分だ。


(麒麟/ガラス玉/無意識な自己否定)




感情なんて邪魔なものだ。いつしか彼がいった言葉を思い出す。どうしてだろう。そう思うことすらも同じなのか。手にこびり付いた血の匂いが鼻を刺激する。広がる赤い海をただ茫然と見つめるなか、赤くなる彼の愛鳥が幾度となく泣いている。永遠に動くことをやめた、かつての青年の言葉が降りかかる。だがどうしても。「感情なんて、」と、その先の言葉が言えなかった。

(未来/二強/今世を呪え/死)




能力者は皆化け物だ。人の姿をしながら人ではない。得た能力を羨むものもいる。だが実際それを得るためには強くならなくてはならず、手っ取り早いのが手柄を立てることかもしれない。と思ったのがほんの五分前。食わる腕を引っ提げて、血を滴らせる。両の腕をふるい、獲物を狩る姿にだれが恐怖しないといえよう。あれはもう人間とは言わない。人智を超えた人の馴れの果てだ。

(動物系覚醒及び回復値異常設定/モブ兵士/三強の何れか/グロ)




悔しがっている同僚が、渋々掛け金を手渡す。もう勝てるやつがいないんじゃないのか。そう思えるほどやり飽きていた。白と黒の盤上には常に黒い駒が席巻している。手ごたえのない勝負は、何度繰り返そうと暇なものだった。はずなのに。瓦礫につぶされた王が足元に転がる。砕けた黒をみて思わず「楽しめそうだ」と笑ってしまった。

(チェス/豹/対麦わら戦)




「賭けをしないか」膠着状態の盤上を見つつ上司はそう言った。負ける気など毛頭ない。ここで勝ち逃げることもできた。だが次に続いた言葉に思わず進めていた駒がぶれた。「一つだけ本音を語る」天井を指し、どうだ?と視線をよこす上司の顔はどこか楽しそうに「お前は無口だからな」と笑ったのである。

(チェス/市長/豹/1-2)




「中々に強いな」カップに紅茶を注ぎ、口をつけると遊びに満足した子供のように言う。減ることのなかった黒白の王がその言葉を物語る。この男が本気だったのかは掴めずだ。「それじゃあ、何を言おうか」「は?」つい、そんな言葉を口走る。それが面白かったのか、上司は僅かに口角を上げて「負けたら、とは言ってないぞ?」そうのたまった。

(チェス/豹/市長/2-2)

2018/06/09




昔話をしよう。そういうと少年たちは少しがっかりしたようだ。一緒に空を駆けてほしいらしいがこちらとしては問題になるので仕方ない。だから特別に、と付け加えて誰も聞いたことのない話をするからと耳打ちする。秘密の話。秘密になるかは彼ら次第。遠い日の昔話。追い続けた彼の話を、今日は久しく語らいたい気分だった。

(二強/W7/昔話と子供たち/憧憬/1-1)




「あた、」子供たちに手を振って昼休憩は終わりとなりかけた。後頭部に感じた少し強い衝撃に上体が揺れた。「酷いな、」「どっちが」振り返りながも察しがついてので「嘘ではないぞ」と言葉をつづけた。「いいように使ってるだけだろ」「そうじゃよ」眉間のしわが深くなる。これも嘘ではない。「わしが見てるのはいつだってお前だけじゃよ」

(二強/W7/昔話と彼ら/偶像崇拝/1-2)




似つかわしくないそれは実際は消えてしまいそうなほど弱い。だが覚えのある匂いだと己の直感が告げていた。振り向く先は人に溢れ、正体など掴めない。遅れた歩みに気づいて名を呼ばれ、遠のく匂いを追うことは叶わない。しかしそれすらも無かったことのように金色の世界に一つの記憶が埋もれていった。

(gold/side:z/1-1)




どこも眩いこの場所で同じ色を纏っても特定のものは零れて跡になる。それが同属ならば尚更か。でもその選択は今回の目的には無いもので、身勝手は彼が嫌うところでもある。立場の理解を得ようとも、記憶の断片が呼び起こすものが嫌な訳ではなく。ただ今がその時ではないことが少しばかり残念だったのだ。

(gold/side:k/1-2)




「懐かしい顔をみたぞ」そう告げたが勿論変化は一つもない。あるのはただ、それを肯定する言葉だけで当然といえば当然の反応である。肯定された言葉の中に己と同じものが感じ取れないのはきっと、幾ばくかの程度で感情を御する術が優れているからだ。たった一つの敗績を彼が赦すわけはないのだから。

(gold/二強/1-3)


2018/07/04




大声で叫ぶ言葉は大抵決まっている。だからそれに応えるだけのものを用意しておく。遠のく足音とうってかわって静かになった部屋へ踏み込んだ。その僅かな床の軋みに反応しないはずはなく。シーツ1枚を隔てるだけでも感じられる触れたことのある気に当てられながらも「飯だよ」とだけ告げたのだった。

(Mente Debole/護謨豹/料理長/事後)

2019/10/21




「大層なものをお持ちだそうじゃないか」緩やかだった歩みは止まり、片足のつま先だけが再度向きを変えた。影の中僅かに見えた一等星に近い輝きに一層の興味をそそられている。「是非拝見したい」続いた言葉に答えはない。けれど変わりに、何かと重なりそうな背中を、ただただ欲深く欲していることを自覚した。

(F:gold/金豹/背中の傷/共通点)




小さな足がどこまでも進めるというように流れる指の道を行き、時折聞こえる鳴き声が楽しさを伝えていた。豊かな表現はできずとも長年連れ添った分、それが良いものだと教えてくれている。ただいま。と何処か誇らしげな愛鳥が肩に乗った直後には、ありもしない筈の花弁がのったグラスが目の前に現れていたのだ。

(Per caso/花豹/鳩)




あわく灯る小さな光が風もないのに揺らめいた。窓は開けていないが確かに室内に風が吹いたのだ。荒々しくはないが主張激しい風の主は小さな身体を目の前で作り替え、前脚が人の形へと姿を移す。産まれた姿そのままに、数秒前と変わらない愛しい仕草を続けながら、手上とばかりに人声で鳴いて見せたのだ。

(雉豹/成猫豹)


2019/12/01



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