CP9小話


□本音と建前
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セントポプラでの歳の差二強


ぱたぱたと駆ける看護婦がなにやらせわしなく動き回っている。急患でもはいったのか。もしくは患者の容体が悪化でもしたのか。知識として知っている病院のことなどその程度しかない。それと同義として自分たちには傷の処置はできても治すことを知らないのだ。応急処置のそのあと。なにをすればいいか。でかい傷や打撲ならまだいいが、内臓に負荷がかかるともうどうしようもない。自分で腹を裂いても意味がないし逆効果この上ない。なんて、

のんきに考えている自分も、また随分と平和ボケしていることを自覚する。

「なんだよ、入んねぇのか」

病室のフロアに用意されている手すりとベンチ。室内にもかかわらず誰かと同じく帽子をかぶったまま、浅く腰掛けている男の隣に深く腰掛けた。

「診察中。というか追い出されたわい」
「あ? なんで」

いちおう自分たちはたったいま診察中の男は関係者のはずだ。このさい医療費の話は置いておくとして、関係者であるはずのカクがなぜフロアで待たされているのか。理由がわからずにいると彼がふいに自身の鼻に指先で触れた。

「臭う、だそうだ」

数秒遅れて「ああ……」と返事をする。病院内の匂いを言ってるのではない。病人たる男が言ったのは彼自身の血の匂いを言ったのだ。

「あいつと比べりゃマシだが、ひでぇ匂いしてたもんな」

外傷よりも身体全体に酷い負荷がかかった状態で担ぎ込まれたものと身体に深い刀傷をいくつも残していたもの。匂いという観点で言えば後者は特にひどい匂いだった。黒い衣服が出血した箇所を、にじむ血を、傷を隠してしまうから余計だった。全身に血の匂いを付けたままほぼ半日を過ごしたのだからまだ匂いが完全には取れていない。それはジャブラでもわかることだし、同じ能力を持つとなればなおさら匂いには過敏になるのは致し方ないことでもある。

「自分のことなぞどうでも良いという素振りはやめてほしいな」
「………んだよ、本音はそっちか」
「ちがわい」

声色が少し落ちた声で瞳は開かないままの病室の扉を見ている。不機嫌そうな理由は何ともわかりやすいことだ。口数が少ないのも臭うと言われたことが含まれているようだ。

「いじけんなよ。餓鬼じゃあるめぇに」
「わしはもう大人じゃ」
「俺からしたらまだ餓鬼だよ」

すぐに返答はなく、数分の沈黙が互いの間に流れた。足を組み白く汚れすらなさそうな天井を見ているとようやく返事がした。

「お互いさまじゃろうて」
「分かってんなら言うんじゃねよ」
「しょうのない。わしは餓鬼じゃらからの」

少し前の言葉をそっくりと返してきた。これだから餓鬼だと言うのに。
病室からかすかな機材の擦れる音がする。室内から病人に追い出された時間はそれほど長くも短くもなかった。同じ音を聞きとっていたのはなにも自分だけではない。

「そんじゃその餓鬼同士、花でも添えてやろうじゃねぇか」

立ち上がり視線だけがカクを見る。視線を合わせてからゆっくりとはずした。

「いや、それよりも」

云うことがある。

タイミングよく病室の扉が開いた。



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