CP9小話


□Sore loser
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 数日に一度この島には船がやってくる。孤島とされるここでその船が資源や食料の受け渡しを担っていることを誰もが知っている。だがそれはあくまで二の次。いの一番に重要視されるのは乗船した人物たちの帰還である。海に囲まれる島国である以上、移動は船を除いてほかにない。だからこそ数日に一度の頻度で船はやってくる。その頻度に応じて帰還する人数も変化する。
 裏を返せば乗船したものの抱える任務の難易度を表している。数日、二〜三日程度で戻れるものはまだいい。担当した任務の難易度がそれほど高くないという意味からだ。
 この程度の任務を即座にこなせないと判断されれば、高難度の任務には候補から外される。長い訓練の中で洗脳にも似た意志が、ここにきて揺らぐものはその瞬間から振い落される。
 だからこそ任務の難易度に関係なく、数日で任務を終えて戻るものは少ない。人手不足、というのがこの場においては適当だろう。教官となる大人たちと違ってまだ心に隙がある。それをいかに殺して押しつぶして、消し去れるのかも才能の一種とされる。
 特にそれが秀でていて、その精神面に劣らずの戦闘能力を持ち合わせたものが今年に入ってからまだ、指で数えられるほどしかいない。
 遠目で視認した船が島に近づいてくる光景はもう随分と見慣れたものだ。けれど今日は誰よりも早く訓練を終えて、自己鍛錬の時間に入っている。真剣を鞘に納めて持ち歩き、待ち続けた船から降りてくる同期の顔を一人ひとり見ては少しばかり落胆していた。

「あいつならいねぇぞ」

 ふいに自分に対してだと思われる言葉を拾う。主語のない言葉が誰を指しているのかなんて、船から降りてきたもの全員の顔を見終えていればわかるものである。

「…予定では今日のはずじゃろう」
「文句なら上にいいな。追加だとよ」

 今の身分で言えるわけもないことを知っていてジャブラが鼻先で船を指す。いない、ということは最初からこの船で帰還することはなかったということだろう。
 なんとなくそんな気はしたのだ。彼は自分よりも年上ということを除いても、同期の者たちに比べて成長が早い。いや、早いのではなく皆が遅いのだろう。あれがいわゆる求められる逸材というのかもしれない。

「文句はない。仕方ないことじゃ」
「真剣持ち出してるやつが言えることかよ」

 鮮明に記憶していた自分と彼とではすでに記憶に多少の差があるのかもしれない。だがそれでも彼の許される短い時間の中で、己のために時間を割いても良いと。そう言ったのが心の底からうれしかったのは本当だ。少しでも彼に近づけるならという気持ちにあふれたから、つい本分を忘れて心を躍らせたのだ。

「…今日ならいい。そう言っていたからな」

 追加の任務、短期間から長期の任務へと切り替わるということは、装備もそれなりに変わってくる。その準備のために一時帰還しないならここで装備をそろえる必要がないという意味もある。もし、彼にその任がきたのなら、己の実力では対処できないものだからだと何度目かに理解はした。頭を掻いたジャブラが呆れたというように息を吐いている。

「…っっとにガキだな、てめーは」
「泣いとらんが、」
「やせ我慢だろ。変わらねーよ」

 数歩歩み寄っていたジャブラの足取りが踵を返す。今回完了した任務の報告書を仕上げなければいけない。でもその前にまだ上司にあたるこの島の教官に、今回の任務についての報告を上げるのが先だ。

「それ、あいつに勝つまで取っとけよ」

 ひらりと手を振って、それ以上に何も言わず。この島にただ一つしかない建物へと向かう。

「・・わかっとる」

 聞こえたかどうかもわからない言葉は、船に押し寄せる波によって打ち消される。数分後、再び航海にでる船には政府関係者以外すでに乗っていない。
 出港に向けて動き出す船の行先を思いつつも、抜く機会を与えられなかった刀の鞘を、ただ静かに強く握りなおした。


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