CP9小話


□倉庫
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続きが書けそうにないものが主
もしかしたらここから引っ張り出すかもしれない置き場


※三強の戦闘訓練で書いてフリーズして止まったやつ

 人には癖がある。無意識の癖と意図的に行う癖。感情の表れとなる癖。人によってさまざまだが、癖というには少し違うものもまた存在しうる。多少なりと異なるにしろ一人の男にしてみればそれは確かに癖ではある。しかし他者から見れば癖ではない。単純にそれは癖などという言葉ではいささか意味をはき違えているものだ。

 司法の島には無人区が存在する。その場に人の姿があるのは稀である。駐在する兵士たちの寮でもなければ資材を保管しているわけでもない。その中で聞こえる音など皆無に等しい。
 固く閉じた門の裏側で先述したものが無く、響き渡る音があるとき、何も知らない兵士たちにとってそれを人と認識できるもののほうが少ないだろう。
 当事者たちにとっては単なる暇つぶしの延長戦でしかない。もしただの人間にその音を気取られるようなことがあれば、それは力の衰えといっても過言ではない。

 鋭利なもので切り裂く以外での破壊行為は限られてくる。障害物をなくし、視界を確保することは悪いことではない。だが代わりに敵の姿だけではなく、自身の姿までも晒してしまうことになる。
 格上の男を相手にしてそれは自殺行為だ。視界を得た瞬間に狙われるのは分かり切っている。かといって視界の端々に霞む黒を追うというのもやはり疲れるものである。
逃亡を図る敵の始末は未経験ではない。あとあとの処理を考えて最小限にことを成さなければいけないこともわかっていた。

 それでもやはりその任に自分だけが選ばれていないことに腹が立つのだ。

影を潜めた同じ任を追ったジャブラは距離を保ちつつカクの背後を追っている。狡賢いことだと思えても、そうしなければ敵役である彼は捉えきれない。
 これが例えば機密文書を盗んだ敵としよう。戦闘においてほぼ支障のないものを得たまま迎え撃つことも彼のような男なら可能にしてしまう。
 ならば、最小限という限度はなしだ。と、ここで訓練における言い訳を頭の隅に置き、加速した。
 加速に気づいたのか、前方に捉えていたルッチがわざとらしく翻り地上へと落ちた。移動によって視点が変化する。
 落ちた先は無人区しかないが着地のポイントをあえて教えるのは彼のすることじゃない。翻ったことでルッチの身体が正面を向いて空を走るカクを逆にとらえている。
 ほぼ同時で鎌鼬を起こす。鏡のように対照的な二つの三日月が、弧の中心から始まって存在を互いに撃ち消し合った。嵐脚独特のキリキリとした音は双方の音を吸収して風と共にを吹き飛ばしていく。
 緩やかに波紋をのように広がる衝撃の余波にルッチが旋転し、一拍遅れて着地した。あとに続いてカクも空を落下する。同時点に二人の人間が同時に足をつけるのは難しい。
 速度は先ほどと変わっていない。むしろさらに増したことで一種の弾丸のような速度となっている。
 見上げることなくルッチの姿が消えた。残像の名残りを追いつつも、地面に穴を開けた。
落ちる速度と重力で破壊力が増したから左足はめり込む。その左足から今度は右足が軸となる
砕けた瓦礫を靴底のつま先で踏みつけるとわずかながら靴底に違和感が残る。そんなこと、どうでもいいのに。
 上体を低く構えると蹴りだす瞬間に右腕を退いた。さらに捻りを加えると正面から対するルッチからはカクの右腕が死角に入った。ルッチもそれは分かっている。突進そのものと第二撃目となる指銃に備えて対する腕を下げる。



※縄に縄の葉巻の煙を吹きかける豹になるはずだった書き始め。


これはいよいよもってやばいかもしれない、という考えがふとよぎった。別に死にそうだとかいう意味ではなく最近の取り立てのしつこさに、という意味である。しかしそれもこれも元は自分で蒔いた種であり、全額を今からでも即返却すれば解決できる問題でもある。それができないこともまあ、自業自得というわけで。ちょっとした失態になったのは今回がたしか初めてである、はずだ。
数週間前の逃亡劇を覚えているほどできた脳みそはない。常に頭の中にあるのは仕事仕事仕事、そして酒と愛煙の品。昼休憩中の追いかけっこの失態でほぼすべてをおしゃかにしたうえに、その貴重な昼休憩も終わりそうときている。幸い社内で着替えはみつけたが、それよりも午後をどう乗り切るかを考える。仕事に支障をきたすほど依存しているとは思いたくないが、ないよりもあったほうがいいものであることには間違いない。
残りがこれだけ。そう思うとどうしようもなく悩まされる。
また午前のようなことが起きるとも限らない。ならばここで最後の一本を味わってしまったほうが良いかもしれない。吸い始めてまたあとで、なんて自身の心情が許さない。



※なんかの戦闘シーン。豹に血の礫(目つぶし)なるものをつかってほしかったとかなんとか。


一見して平和に見える世界の裏側でこなす仕事は、いつだって綺麗とは言えないものばかりである。かといって、それがない世界はもっと悲惨なのかと思うと、この世界の秩序も少なからず役に立っているのだろうの思えてくる。
存在を疎まれて抹殺対象となる人物など世界政府の都合でいくらでもできる。けれどその中には政府側の事情に精通し、一矢報いてやろうと考える輩がいることも少なくない事実である。
金と権力と、どんな人間にもある死にたくないという感情。地獄行きの片道切符を自身だけでなく殺しを請け負った人間にも与えようとする。けれど死んだ人間にできること何一つなんてない。それこそただあっけなく死ぬだけでは何もできないのだ。だから。すでに決定された死なら、暗殺者が少しでも足掻く姿をこの世のどこかで、もしくは死の直前に見てみたいのだ。
機械のように冷たくて人をごみとしてしか見ていない瞳に、それが宿ることを死に際になって期待する。でもその希望が潰えても良いように、第二、第三の策を混ぜこむ。それを知る暗殺対象だった男は、やはり前述の通り、あっけなく死んだのである。

標的の死を確認したものの、それと同等に重要な物資が見当たらず思案する。この場に長くとどまることは任務失敗の確率が上がってしまう。わずかな時間で考えられる可能性を潰していかなければならない。だがその可能性もすでに指で数える必要もない。死んだ男の生気を漲らせる顔などすでに思い出せないが、一つだけ覚えているものがある。確実な死が迫る中で男は恐怖で震えるどころか、しっかりとこちらを見て笑った。
己の最期のあっけなさに呆けたというには違う笑み。指の先の最後の気力を使い果たす直前。抱え込むようにおろした右腕が隠したのは下腹部だった。
男はこちらの焦燥した姿を見たかったのだろうが、残念ながら最期の最後でヒントを残してしまっている。
生気の失せた身体に歩み寄り、足先で右腕を退ける。ごとりと骨関節が床に当たって落ちる音がした。
呼吸を一つ。吸い込み、吐き出す瞬間のうちに指銃の撃ち抜く速度を保ったまま手刀を突き刺す。母蜘蛛の腹を破る子蜘蛛に似た動きを逆再生するようでいて気分が悪い。



※市長がCP9長官の世界の麒麟と豹。この市長は体技使える設定だったかな。


なんてことなのない日、太陽が昇りきっていて日中一番の気温に届いた日、付近を流れている水路からの湿気で幾分か涼しいもののそれでも人間の体温からすれば熱く感じられてしまう日。
そんな日でも作業現場に顔を出しては進行具合を確認して、遅れがあれば自ら参加して補う。月に一度あるかないかの出来事をいまになってぼんやりと思い出す。記憶の中の男はいつだって表情が希薄である。古い記憶は美化されやすいというがたった数年の記憶がこれほどまで美化されるというのも珍しいことだと思うのだ。

「聞いてるのか、カク」

変わりようのない抑揚で名を呼ばれて、やや俯きぎみであった視線を上げる。自身のつま先が見えていた視線に冷たくて暖かみなどまるでない卓子が映る。それを挟んだ向かい側に座ったまま内容の異なる紙面を数枚手にして、その利き手にはいつかと同じようにペンを握る。

「復唱しましょうか」
「いや、言い方が悪かったな」

承認のサインを書き入れる。ペン先がかすれて黒い道筋を生む音が途切れることもなく終着すると、紙の表面からペン先が離れる。が、それが再びペンスタンドに置かれることはない。
紛れ込ませるように目を通した紙面を卓上の端へと移動させながらペンが跳ねた。音はほぼなくて、聞こえたのは卓子と紙が擦れて聞こえた音だけだった。互いに視線が合わさっていたわけでもない。一人は視線を紙面に落としたままであり、逆にこちらは男の首から下はしっかりと見ていた。外したはずものない視線の中で一瞬の瞬きでも突いたように。その先端が瞳の前で刃となって見えたのだ。

「お前、待機」

利き手に見えていたペンがなくなり、次の紙面へのサインが滞ったことで頬杖をつく。
その見つめる先で、零れ落ちた色。期待したものはなく、残念ながら黒だった。

「ルッチ、今日中に済ませ。文句はカクに言え」

ビッと人差し指が交互に動く。ゆっくりと黒を落とす先が退いていって隣の男が口をはさんだ。

「お遊びは困りますが」
「暇そうだったから。つい」

思ってもいない言葉とともにからからと笑って手を開く。



※紙一重の〜であった秘書の代役をする豹の大元のやつ。ほんとはもっと続くはずだったけどオチは忘れた。


市長であり社長でもあるアイスバーグがスーツ姿のまま作業をする姿は珍しいことではない。質が高く、より早く、作業をこなす船大工たちとともに作業を行い、その傍ら市長として職人としてでは必要をなさない挨拶や会食をする。むろん後者すべてが一日で終わったことはないが。
その日、1番ドックの前にはいつにも増して人だかりができていた。それも多くは女性ばかり。昼食を終えて、借金取りに追い回されて戻ってきたパウリ―にしてみれば、見慣れたことではあった。女性の見物客は嫌いではないが、たいていその視線の先にいるのは全くしゃべらない鳩を介して話す同僚なのだから。女性人気のうち5割はその変人たる職長と社長の人気で占めている。最も前者に関してはあんな変人のどこがいいのかと思いたい。まあ世の中は結局顔なわけだ。
と、ここまではいつもとなにも変わることのない、彼の同僚への感想である。人だかりをかきわけて、1番ドックへと戻ったとき、それに気づいた。
尊敬するアイスバーグのすぐ隣で話す男、なにやら資材の配送について話をしていた。それはいい。よくあることだ。問題は、その男の顔だ。
見たことのある鳩を肩に乗せて、お得意の腹話術ではなく、確かな母音の形を紡ぎ話す彼の姿は同じ職長のパウリ―でも声がでた。

「ルッチか?!!!」

その声に驚いて、肩に乗っていたハットリがいつもの腹話術に呼応するような動きで羽ばたいた。

「おう、パウリ―戻ったのか。悪いが仕事を頼む」
「あ、はい。ってまてまてまて!! なんでお前! いつもの腹話術はどした!? つーかなんでてめぇがスーツなんか着てんだよ!!!」

アイスバーグの言葉にすかさず返事をしておきながら、口からは今目の前に起きている現実につらつらと言葉重ねていく。その姿を見て、いつもの無表情のまま、けれど確かにルッチが口を開く。

「カリファが緊急の用でいねぇって、昨日言っただろ。忘れてんのか」
「いやいやいや! だからってなんでスーツなんか着る必要があんだっつってだよ!!」
「ンマー、今日は絶対に外すなと言われた会食
が重なっただけだ。俺一人でもいいが、カリファがダメだってんで、ルッチに頼んだ」

「そんな〜…俺がついていきますって!!」
「お前に船大工以外の話ができるとは思えんが」
「悪いが俺もだ。すまんなパウリ―」

一致した二人の答えを聞いてパウリーは肩を落とす。が、言われてみれば仕方ないとしか言えない。自分にはカリファやアイスバーグのように事務系統はからきし。会食ともなれば、礼儀を必要とする。テーブルマナーなんてやれる自信がない。

「お前はアイスバーグさんに頼まれた分をこなせ。あとは俺がやる」

署名の入った書類を数枚渡すとルッチはまくっていたスーツの袖を元に戻す。タイを整え、そのままドックの入口へと向かう。
差をつけられたような何とも言えない気分を払いのけるために手渡された書類をめくる。自分とは違うきれいな文字が二つ並んでいた。
アイスバーグ。ロブ・ルッチ。責任者の欄にはあと二つ空欄があった。

「あいつ、こんな小奇麗な字ぃ書けんのかよ」

おもわず皮肉をこぼした。あまり目にしないのには理由がある。署名欄には最低でも職長のサインがあればよいことになっている。それ以上のものには職長の署名と社長であるアイスバーグの署名が必要となる。そして、前者の署名をいつも最初に書くのが自分だった。だから知らなかったのだ。あの変人がこんな文字を書くなんて。

「文字まで完璧かよ、くそっ」

二度めの皮肉は空へと吸い込まれていった。


「なんじゃパウリー、今日はまた機嫌が悪そうだのう」
「また負けたのか?」






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