CP9小話


□白いそらごと
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※GOLD変装シーンにて




あと少し。そう思った時だった。いつかにみた真っ白な色を纏う男が通りかかった。ドレスローザでみた連中とは格好も体格もだいぶ異なっていたが、ただ一つだけ覚えのあるものが見えてしまい変装をしたままでいる今ですらも汗が止まらないのに、ここにきて余計にふきだしてしまう。あの、人語を理解し、人間の言葉に合わせ動く白い鳩を、忘れたというには難しい話だった。w7でその高度な腹話術に拍手を送ったのはほかでもない船長と狙撃手ではないか。

「───これはこれは、天竜人の皆々様。このようなお時間にどのようなご用件で」

一瞬の沈黙の後に男はそう口を開いた。たった一瞬の、なんてことない沈黙が船医の直感を引き出す。本能的にこの男を知っている。そして、平常穏やかに言葉を連ねている目の前の男は、こちらの正体に気づいている。退けと、本能が告げている。けれど今それを行えば確実に命がない。
この男がいたという事実は同時に、あの戦いの後どうなったかを物語っている。

「一介の役人であるあなたに話す道理をございません。それとも、我々の邪魔をなさるというのですか?」

付き人が口早に告げる。すれば男はカマエル聖へと向けた視線をロビンへと向けた。あの瞳。間違うはずはない。仮面越しに見えるとはいえ、あの冷たい瞳に覚えがないとは言えない。

「おっしゃる通り、私は一介の役人に過ぎません。ですが一つ、面白い話を聞きましたので…」
「こちらは急いでいます。邪魔をなさらないでいただきたいっ」

つい、語尾の声色が強まってハッとなる。しかし男が気にするようなそぶりはなく急を要するという言葉を聞いて壁のように佇む姿がゆっくりと動いた。

「それは失礼いたしました。では」

道を譲り軽く首を垂れる。時間が迫っていた。
心臓の音が嫌にうるさい。この時点で男に正体が知れているということは全員が把握しているわけではないが察しているものはいる。わざと道を譲ったとも思えるほどの引きの速さに、余計警戒心が増していた。どんなに心が早く、早く、と願っても男のそばを通り過ぎるまでの時間はとてもつもなく長く感じられた。
重なる足音が数歩先を歩みきり、狭まっていた視界がようやく広がると同時だった。

「せいぜい巧くやることだな」

何度も聞いた声色に振り返る。だがすでに白はなく、室内に緩やかな風が吹いた。




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