CP9小話


□繋ぐ琴線どこまでも
1ページ/1ページ




※5職長の連携話(あげ忘れてた)



人間は好奇心と欲の塊だ。どの分類においてもそれに揺るぎはないと感じる。誰だって新調した衣服や靴、工具に武器。すべてにおいて手にした瞬間から試してみたいという気持ちが少なからず生まれるから。その例にもれずに言うならこれもいわば新型の、言い直せば最新の調合と殺傷性を兼ね備えているのだろう。もっともらしい理由をつけようにもこれはさすがにいただけない。どこの誰が爆薬なんてぶん投げてくるんだと。しかも手元がくるって大勢の人のいる中心ではなく大事な現場材に目掛けて投げるやつがこの世にいるんだからたまったもんじゃない。

両刃の鋸を三本代償にしてそれを宙へと跳ね上げるものの、爆風と風圧を防ぐにはそれだけでは足りない。仮足場の上階でそれを見ていたもの。爆風によって押し傾いた鉄材を人一倍の神経を使ってセッティングしたもの。そして傾いた基点にある鉄材の抉りだした土の塊を見たもの。各々のやるべきことがこの瞬間すでに決まっている。

咥えていた葉巻を落とす。先ほど火をつけたばかりだというのに、文句の一つもないなかで男の両腕が人間としては誰よりも早く反応した。握った工具すらも足元の地面に突き立てて男は両腕をふるった。自身で調整した数本の索条を垂直から時計の短い針のようにゆっくりと、しかし早い速度で傾く鉄材の頂の周囲に巻き付けた。交互に巻き付いたあと、先端に取り付けている重石が代わりのナイフが鉄材を楽器のように奏でる。一度跳ねてから切り欠けに引っかかった。

「保って二秒」
「十分」

まず一人。すかさず、ずれた基点を狙い体格を生かして、傾きとは真逆の方向から衝撃を与える。甲高い音とは同じく逆に鈍い音が響く。真逆に押し出されるように鉄材はほんの一瞬だけ傾きを留める。一人目の初手が台無しになる前、二人目の怪力でそれを繋いで制限の二秒は使い切った。衝撃が鉄材を伝って頂に、そして地面へと衝撃を逃がしきる前に、三人目が仮足場の上階へと上る。一番足に自身があるものと、五人の中で次に怪力たるが四人目である。

「借りるぞ」
「ーーーああ」

伸びる鈍い音が少しずつ消えていく。それは同時に傾きの再開を知らせる合図でもある。
三人目が先に、少し遅れて四人目がハットを抑えながら空へと駆け上がった。四人目の男は三人目の男よりも少しだけ高い。その位置に合わせるように身体を回転させ上下をひっくり返す。空に両足を、地面に頭を、見えた地面には二つの丸い影。それがすぐに重なって一つになった。雑念が入り混じる。だがいまはそれを打ち消して、増した足底からの重さにこの町ではもう姿としては見慣れた山風としての姿のせる。
人が、一人でに空を飛ぶ。事実をいまは変えてはならない。曲線を描く跳躍から一変して鋭角にも等しい屈折を経て空に蹴りあがる。静まっている振動音のない鉄材からは重石のナイフが振り子のように揺れて鳴りだしている。そこに指をかけ、一転して絡みついたうちの一本をほどくと締まることのない鉄材を締め上げていた索条が緩みたわんだ。
指をかけたナイフを持ち替えて、持ち主の一人目へと投げ返す。突き刺さったナイフが地面に触れた瞬間に五人目がその詮索と地面とを繋いでいく。不規則ではない音が響くこと数回。基点から移動した二人目が索条を引いた。投げつけた縄が緩まぬように四人目が張りつつ、最後に三人目が頂をその引く方向へと押し出していく。

「ラストォ!!」

引綱を握り、ようやく軌道を変えることをよしとした鉄材が轟音とともに広場に沈んだことを見届けて、誰も知らない空の中で息を吐いた。



費用はこの原因を作った彼らに上乗せで払ってもらえるか。少し不安であったが、船長の首で事足りるなとも思って、つい本音が浮上した。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ