CP9小話


□こたえあわせ
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※事後だけど前半は事後じゃない。


目には見えない水中で身体がもがいている。水かきもないただの人の手が、ありもしない真っ白な水の中をかいて、息をしようと必死になる。一呼吸するだけでは足りず、その次を求めてもすぐには得られなかった。それでも、少しでも良いと。鼓動の早まる身体と酸欠によって霞む視界の海をあってないような意識を何とか保ちながら最果てを目指していた。視界がぼやけていく理由がわからないほどトんでいるというわけでもないから認識するうえでまだ理性が残りすぎていた。
人よりも頑健だったからとか、能力の抑制にそれが多大な負荷をかけるからとか、理由になりそうなものはいくらでもあるが、これだけはこちらにらしい理由はない。反するものが自身の頬を濡らす感覚が冷たさにではなく、熱さに上書きされるのはよほどのことなのだ。
皮膚が焼けてしまうのではないか、と錯覚するほどの息吹と、それと同等か、もしくはそれ以上の熱量に中てられてか、そこでようやく息が吐けたのだった。

***

熱が逃げていく。すぅっと冷えた背中とは別にして質量が少しだけました。身体の一部のその先端。ひとふさを指先に絡めているのが背中越しにでもすぐにわかった。

「起きた?」
「起こしたんだろ」

悪戯をしようとする前に見破られて拗ねる子供のように、というわけでもなく。待っていたという風に声がふるのと同時に微笑が漏れて聞こえる。くるくると黒髪を絡めてはほどき、時折持ち上げては黒糸一本一本を指の腹で弄り始める。

「なんだ」

女の髪でもないのに、というのは口にせずに鬱陶しいからやめろ、という意味を込めて上体を起こした。上体を起こしたことで絡めていた黒髪が主のもとへ惹かれるように失せていく。色白の肌を黒糸が撫で落ち着く様を細めた瞳がじっと見ていた。

「嬉しくて」
「………寝てないのか?」
「寝たよ、ていうかひどいな」

訝しげ表情を気に留めるわけでもなく、冷静に返事をしたものだから寝ぼけているというものでもない。微笑が徐々にはっきりとした弧を描ききってから気づいてない?と続けた。

「匂い、俺と同じになってる」

先ほどまで髪を絡めていた指の腹が肌に触れ線を引く。つぅっと上腕をのぼって肩を這い、
唇に触れた。ゆっくりとなぞられた唇が僅かに熱を持つ。たまらないとばかりに懲りずに笑みがこぼれている。

「…そうだな」

珍しく聞くことのできた肯定の言葉が何を意味するか、どうやらまだわかってないらしい。

「正確には───」

お前と俺の。が適切だろうに。




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