CP9小話


□Somigliare
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※頂上決戦の有名なパラレル話に豹をぶち込んだやつ。四人動かすの無理だわ。



目まぐるしく変化する戦場でそれが起こるというのは稀な話だ。むしろないほうがありがたいのだ。双方の意識が繋がりあってしまうとどうあってでも視線の行く先がブレる。関係性にこれといった興味もないが、立場が異なる以上は再度会敵することもあるだろう。ただどうにも。こちらからすれば敵勢力に間違いない人物にとっては認識はあまりかわっていないようで。意識の間に入り込んだ殺気を打ち消すよりも先。言ってしまえば先手だったのは己ではなかったのだ。最高戦力の集中するこの場で再度相対せるというのはもしかしたら幸運なのかもしれないが、すでにその勝敗に関しては結果が出てしまったので意義を見出すことすら無駄で。傾きやすい振り子のようなその選択を咎めもしない後方を走る逃亡者に、何をもってそう言えるのかはあまり理解はしていない。だが奴が。奴らが闘るというなら敵前逃亡がありえないこの場でこちらにとっても選択肢は一つしかないのである。
いずれにしろここで時間を稼がなければ選抜された意味が消える。己の肩にかかる珍しい大義をもつ意味が。
後手に回った、こと戦場においては致命的なものだ。ただしこの場は狭くなければ、人数が少数というわけでもない。代わりになるものを補って余りあるのだ。
かき消えているに等しい音玉に反応を示す。前進ではない後退に何か不審に思うわけでもなく特攻する様に逆にこちらが察する。
後退する一度目の音が鳴り終わる。数十メートル後方の、よく見慣れている白を掴み、驚きの声を上げる上級兵を背面のまま投げつける。少しばかりの視界不良には眉が寄り、けれど退けるのではなくこちらの速度と同等もしくは倍加させる形で回避運動に入る。随分慣れたようにうつるその足元をすくい上げるため、二度目の音玉は一層強くはじけて消える。着地の寸前で左足をつけ、わざと速度を殺す。最高速度から落ちたまま飛び込んだ姿勢を変えて低く構える。遅れて着地した右足を軸に反転し、地面をえぐるように硬度を保つ。お互いの影がまるで点と点が重なるおうな瞬間に硬化を解き、本能を優先させる。通常状態の指銃がきかないのでは頼らざるを得ないが、そのおかげか察知は早くなる。五指を伸ばし、再度の硬化。己の能力で防げないことはやつも知っている。だから、ここではどうやっても止めて見せるしかないのだ。
いつぶりかにみた、青年の顔色はひどく悪かったが、当時と同じ瞳は健在で惜しいなと感じる。再戦を願うわけではなく、ただそれらしいものを演じるには場が悪いというだけのことだった。動物能力の怪力と硬度により超過する重さに耐えかねて弾丸のごとくあった速度は消え失せる。こちらと太さの異なった青年の能力による腕の拘束は想定の範囲内。あとは、
一人を見ていた両目が瞬のうちに一度だけ周囲の警戒のためにひろがる。すぐに周囲を強い光源が目を焼いて、視界を奪っていった。煌いているといってもいい焔の籠の熱風に弟だという青年が耐えることは能力の使い方で判断したうえでの、最低の条件としては織り込み済みだったのだろう。それにしたって先手はやはり、といったところではある。強まる光源を防ぐため青年の影に覆われようとした時、聞いたことのある音がはいりこんだ。何かが見えたというわけでもない。ただそれが危険だと、身体と悪魔が知らせたのだ。すでに直感が働いたのか、咄嗟に能力の異なる青年の身体を盾にして衝撃を打ち消す。だがなにしろ彼はまだ発展途上。こちらの威力が不足する。うち水でもされように消えた焔は衝撃波に巻き込まれる形で範囲を広げ、わずかな損害を友軍に与えている。
ちりちりと、痛みなのか衝撃なのかもわからない中で敵とみなされる男の口角のあがる。それとは裏腹にこちらは舌打ちを漏らす。衝撃波の相殺には三割ほど成功したのも、打ち消しの要因の問題で実力ではない。

「返してもらおうか」

血のつながりはないとは聞いていたが、なるほどとそこだけはつい納得はした。同じどころかこの先変わることがないのだろう。過去に見た瞳にまた同じく、己の姿が映ったのだから。



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