CP9小話


□Touche
1ページ/1ページ



※Per casoの設定引継ぎ。本音をぶつけたら本音が返ってきた。


ここの連中の精神管理はどうなっているのか、なんて考えてしまうのもずいぶんとぬるま湯に慣れてきている自覚はあった。いや慣れたからと言ってそれが当たり前になっているかと言われればそうでもない。そういうものかという解釈があるだけで、はいわかりましたと快く了承したつもりもない。にもかかわらずこれがすでに二桁を超える勢いなのは自身がではなく、連中の考え方の差異が酷いのではないのか。絶対的確信をもってもいいと感じる。いい加減にしろという言葉をこれまでに何度吐き捨てて、そしてダメだったのかも記憶しているはずなのになぜ自身が宛がわれるのかはわかってはいるのだ。

合計して二十二度目の経験になるこれが単なる子供の駄々であるのはとうの昔に知れたことで、それを本人が楽しんでいるかは知る由もない。おそらく無意識なのだろうということは伺いしれている。ただやはり鬱陶しいと感じるのも本当で。

「いい加減にしろ」
本日、二十三度目となる台詞を吐くと、青年はようやく俯いていた顔をあげた。

「だってお前いつも話聞かねーじゃん」
「言って聞いたことがあるのか」
「──ある」
「悪いがない」

屈んだ状態で目と目があう。そこは断固として譲らないという意志がみえてこれだからいやなんだと息を吐いた。

「…わかった」

いつでも立てるようにと屈んでいた体制を青年と同様に変えて座りなおす。あぐらをかいてそのまま頬づえをついてやる。

「いいぞ」

やりたくないという意志は見せてもこいつには関係ない。聞いてやるから言ってみろ。それだけ通じてしまえばあとはいつもと変わらない。

「俺にも話してほしい」
「ああ」
「俺だってお前と遊びたい」
「ああ」
「一緒に飯食いたい」
「ああ」
「鳩やロビンばっかりかまうな」
「…ああ」

ここまではこれまでの会話と同じ。そう思ってつい油断した。

「俺のこと好き?」
「ああ」

…………ん?

たっぷり十秒。それだけためて何かがおかしいと気づく。ちょっとまて。いまこいつはなんて言った。

「本当に?」

ただ駄々をこねているにしては狙いすぎた台詞だと気づいてはっと顔をあげる頃。確認するように問いを繰り返した青年の表情はすでに喜々としたものが含まれていて、しまったと内心舌打ちをする。

「なあ、本当に?」

壁に背中をおしつけてうずくまっていた小さな青年の姿はもうなくなって、期待できる返事をまち前へでて身体を制することもない。こちらはついのけぞって身体を支えるために片手をついて。まっすぐに見つめてくる視線から目をそらす。

「なあ、」

小さく歯噛みして、数秒前の己をぶんなぐってやりたくてたまらなかった。けれどもう失言を取り消すには遅く、否定を受け入れる相手でもない。なら、

顔を突き出して、いまかいまかと返答をまつ青年の顔を支えていない片手で押し戻す。青年よりも少しだけ上昇したはずの体温にきっと理解はするだろう。だから体制が戻るのと同時に必要なくなった支え手は床に触れない代わりに自身の両目を覆い隠して。今まで聞いたことのないくらいあまりにも小さすぎる声で「ああ」という返事を絞りだしてやったのだ。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ