CP9小話


□共犯者
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※雉の模倣能力者対雉豹共闘戦闘。二回に分けて書いてるのを合わせてます。

 司法の島には当然秘密裏の任務という名目の内容が取り扱われている。しかしその中には例外として人体実験のほか、政府各部で研究される実験についても参加が認められている。それは通常の軍人、および非能力者には到底こなせない内容だから。ということも含まれるが、実際はそれだけではない。
 含まれるのは、新たな能力の研究について、である。この世界で有する各能力といえば、それは当然悪魔の実の能力についてだ。超人・動物・自然。三大能力とされるいずれかを人工的に作り出す研究を、政府が容認しているなんてばれた日には面倒ごとが増えるからだ。
 かといって、この島においても例外とされるのは人材のことだ。どんな能力、あるいは暴走が起きるかもわからない、食べただけではわからない未知の能力に対応でき、制圧できる人材。そういった厳しいともとれる条件をこなせるもの。だからこそ彼が例外といわれる。
 長い歴史にもそれだけのことを成せるものがいなかったため、数年前まではこんな仕事はなかった。振られるようになったのも、彼がその地位を確固たるものしてからであってこれといって伝統行事、なんてものじゃない。
 素質があるというのがそもそもの問題といえる。だから、要請が増えるにしたがって偏りを見せる人工思想に一つの条件を出した。
 もし、なんて実際に考えているわけじゃないが、こういう時にでも言わないと会えないからだ。まあそれが、まさか役に立つときが来るなんて思ってもみなかった。

 ましてや模造能力者を生み出したなどと稀にみる進化といえよう。

 ただ相性が悪い。という部分が一切考慮されない。
 息を吐く。深く吸い込むのではなく、浅く吸い込み吐き出した。漏れる息づかいは当然のように色をもち、白く唇を彩る。冷たさを感じているのはこの室内ではたったの一人だけ。訓練場とされる広いだけの場所で実験と評した何かが行われる。
 自然と生物。どちらに軍配が上がるかなんて子供でも分かるものだが、彼がそんな言い訳を吐くわけはない。
模造品風情に、すべてを使いこなせるなどと思ってもいないのだろう。事実そのとおりで、ただ力で押し込むだけで芸がなく、キレもない。そのはずだが、相性が悪いというのがここで作用してくる。
 もともと寒冷に耐えうる能力としてはかけ離れているせいか、モデル動物の生態系が模倣されているせいか、戦闘情報を引き出すより先に動きが鈍ったのは黒装束の身内のほうである。身内、といっても政府内での話だが。

「疲れたの?」
「あんたわざと言ってるだろ」

 払われた体勢を立て直そうと、一度氷面に降りた時に声をかけてみる。反応はあったが、どうもいつもと感じは違う。
 ずいぶん、口調に余裕がないなと思った。それもそうか。かれこれ数十分。普通に考えればそれだけの時間でバテるのは弱者の特徴だが、研究結果のための予想時間ではあと四〜五分で彼は動けなくなる時間がやってくる。彼と理性が半ば消し飛びかけている相手とでは、活動限界はどっちが先なのかなんて明白だった。
 どの生物にも存在する活動限界。上限の見えない相手に対して限界値を知っている自身の能力値。それに刻一刻と近づいていることがわかっているから余裕がないのだろう。言ってしまえば今ここは極寒地帯に等しく、防寒着もなく、ロブルッチという男が研究のためにその体を酷使しているのだから。
 まあ、本当は予定されていた任務より優先されたのも機嫌が悪い原因の一つだが、長い戦歴にここで傷がつくのも彼だっていやだろうに。

 超人体技六式の最も例として上げられる弱点。それは人体を酷使すること、である。
人間の身体とは一見理にかなった進化を遂げている一方で、もろい部分が多い。ある一定の過重には絶えることができないことをはじめ、可動域・活動可能な適正温度の狭さ、脳からの指令を無視するという本能を殺す愚かさ。特に能力者相手には適正温度を操作可能な相手の場合それが否めないほど目立つ。
 特に、今がそうだ。
 能力系統が動物系であるがゆえに、本能的な危険は承知しているが人間という生物を除く生き物とは前者よりさらにもろいのだ。
 だからこそ、その二つを掛け合わせている彼には極寒地帯での長時間の戦闘は死に直結することになる。これは一部の超人、自然能力であれば打開策を講じやすい。
 動物系が特とする力は迫撃であり、言ってしまえばそれは人間の体の強化だけでしか作用しない。
つまり、あと数分のうちに攻略することができなければ、その瞬間に持ちえたことのない敗者の烙印が彼の中では押されるわけで。
 そうなると最低ラインまでにこちらが止めなくてはいけない。でも完全に手を貸すとそれはそれで面倒くさい。だから悪いなと思うのだけど、ちょっとだけ細工をした。賢いからもう気づいてるだろうし、もしかしたらそれが気に入らないのかもしれない。

「俺がやろうか?」
「御冗談を」

 やったらすぐに終わるから。そんな意味もある。でもこのまま凍傷レベルをあげてしまうと任務に支障が出たとかでこっちに苦情がきそうでいやなんだ。自分で手を貸したのだから、その分だけはしっかり拭かないと。

「じゃあ、一回だけ。それならいいでしょ」

 俺が原因だしね、と付け加える。
 視線だけが寄越されて、唇は動かなかったが呆れているような、どうでもいいよというような息が吐かれた。というか元から許可を求めなくてもいい。上下関係でいえば立場優位はこちらだ。

「始末書は貴方が書いてください」
「やだよ、俺苦手だし」

 俺だって苦手です。なんていうわけがないのだが、誰だって好きでやりたくはない。なぜ始末書が必要なのか。それはいま、実験の結果が決まったからだ。
 たったの一回。手を貸すことを承知したのだから、その攻撃が加減されるだなんて彼は思っていない。消し飛ばしてもかまないくらいのものを行ってもよい。これ以上の戦闘も、情報も、記録として残すには問題が多いからだ。パキリ、と何かが割れた音がする。かすかなひび割れを見逃すはずがなかった。
 数時間後。面倒ごとを持って来るのだろう、確定した結果に文句を言われたらその時は、

 "御愁傷様。"とだけ、伝えてやろうと思ったのだ。


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