夢小説

□旦那のお義父さんにちょっかいかけたら手を出しちゃいけない相手でした【直毘人夢】
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秋の夜長、私は小さな離れで直毘人さんと酒を酌み交わす運びとなった。

夜も更けたころになると直毘人さんは毎回禪院の屋敷にある小さな部屋を訪れて秋の虫の心地よい演奏に浸りながら、風呂上がりに酒を一杯飲むという。そんな時間は人生の中でも至福のひとときというものでどんなに忙しい時でも酒を飲むのは欠かさないらしい。しかも隣に一人、自分が最大限に信用できるお付きのものを置いておくという。躯倶留隊の人たちの会話に偶然立ち会ってしまったときに聞いたものだが禪院家内部の事情はあまり聞けなかったので大変参考になった。隊員が言うにはお酌をする=禪院直毘人様に認めてもらえたということになるので、術式を持たない躯倶留隊にとっては生涯誇ることのできるほどの名誉だとも話していた。

これは良いことを聞いたわ。
さっそく私は直毘人さまが過ごす時間がもっと良いものになればと、直接直毘人さんとお酌を希望することを伝えた。直毘人さんは一度目こそ軽くあしらってきたが根気強く話したおかげでとうとう折れ、私の願いを快く受け入れてくれた。

お酌をした理由?
それはご当主様を癒したかった気持ちが九割くらいだけど、残りの一割はいつも他愛のない会話ばかりで踏み込んだ話をする機会は少なかった直哉さんのお義父さんと直接取り合いたい気持ちがあった。どういう人なのか、趣味や好きなお酒は何なのか、なぜ当主になったのか、詳しく知りたい。旦那と婚約したあと父親を味方につければ後々強力なバッグになってくれるかもしれない。そんなよこしまな気持ちもあるが欲望だけに目が眩んでしまい打算を見破られるのだけは避けたい。そんなことしたら私の好感度はおろか下心があって相手に近づいたのだという烙印まで押されてしまう。あくまで自然体で、不慣れなことはせず、接しよう。
彼の性格を知れたら良いの。それで、私の名前を覚えてもらえて、記憶の片隅にでも置いてくれたら万々歳。最終的に強欲になってしまうのはいつものことだができる事からしていきましょう。

さて、いま直毘人さんは好きな銘柄の日本酒をそばに置き、縁側へ胡座をかいてリラックスしているところ。開け放たれた窓からは冷たい秋の風が吹いてきていた。黄色い月は満月に近く、どこを切り取っても日本らしい風景になる。

「名前、注げ」
やっと呼びかけられたので私は小鉢に酒を注ぎ込んだ。米のいい匂いが私の鼻を刺激する。酒といえば透明という印象だったがこちらは濁った白い色をしているよう。気になったので注ぎ終わった後聞いてみた。

「お義父さま、これは何という名前のお酒なの?」
直毘人さんは〇〇地の地酒だよと答えてくれた。なんでも京都では地酒作りが盛んで、呪術師として仕事をしたあとの報酬は全て酒にあてていたのだった。当主の仕事をした片手間にも酒屋へ赴き、良いものを仕入れてくるのが日課らしい。今尻の横にある酒はたくさんの酒の中から選んだ至福の酒だ。もしお前も酒に興味があるなら知っておいた方がいい、人生が豊かになるぞといって直毘人さんはからのお猪口の中に酒を注いでくれた。
注いでもらったなら飲まないと。香りを感じながら少し口に含む。とろりとした舌触り。格段アルコール度数が高いわけではないが風味とコクが良く、喉元が爽やかになる。

「もう一口、飲んでみてもいいかしら?」
「アルコールには強いのか?強い酒は若者には良くないが」
お酒自体は下戸な方だ。試しに一度飲んでみたときに顔が赤くならず、酔いも回らなかったことから最初は強いのではないかと喜んだが、一缶半ほど飲み干した翌日に風邪のような症状に見舞われ弱いのを自覚してしまった。未成年の頃は禪院家の人たちの多くが大酒飲みなので私もそうなのかもと期待を寄せていたが、結果がこれだったので、最初は凄くショックだった。でも飲めない体質ばかりは仕方がない。今はお付き合いで少量なら飲めるよう訓練したし、無理しなければ大丈夫かしら。

「少しなら」
「ふふっほれ」
酒のラベルを見て直毘人さんは私に微笑み、酒を渡してくれた。笑顔が旦那の直哉さんとよく似ている。特に鼻と口がそっくり。似ていないところは目の形と眉の太さかな、たぶんこちらは母親譲りなのだろう。母親の顔は知らないが。
また一口飲むと酒の香りが口いっぱいに広がる。もう少し飲めば、酔っ払ってしまいそう。ここで私は本来の目的を思い返した。私が酔わされちゃいけない、直毘人さんとお近づきになれるよう、話さないと。酒は酔っ払いそうなほど美味しかったと感想を伝えると直毘人さんは嬉しそうにしていた。よかった、もし良ければもう一杯どうぞ。空になっていたので注いではみたが直毘人さんは外に夢中のようだ。
何かしら。問いかけようか様子を見たが邪魔をされたくはなさそうなのでお酌を置く。そして、当たっているかギリギリのラインで直毘人さんの肩に寄りかかってみた。

「ん?なんじゃ」
小鉢を置いた直毘人さんの胸板にそっとボディタッチをし、そばに倒れ掛かる。酔っ払ったのかと直毘人さんは冗談まじりに言ったがその声は僅かに上擦っていた。そう女に寄りかかられた男は単純なの。こちらに好意があるんだなと浮かれているのよ。
意外とガードが緩いわね、もっと堅物だと思ってた。それに私の小細工に気づくかと。私が酌をするのにもわざわざ小鉢を傾けて注ぎやすい位置にしてくれていたしドライなんて噂されてるけど意外優しいかもしれないわね。
小テーブルに置いた酒瓶を直毘人さんは自分の手で取り、私が隣で寄り添ってるのにもかかわらず、何杯も飲んでいた。急にいっぱいお酒が入ると酔っ払っちゃうわよ。予想した通り直毘人さんはみるみるうちに顔が赤くなり、私に甘えて、嗄れた分厚い手を私の腰に当て、撫でてきていた。
酔うとボディタッチが多くなるらしく、たまに太ももをさすってくる。さすが大酒飲みの酒豪。酔うとおおらかな性格になるのね。私を包み込んで再度酒を飲み干していく。そしてたまに足の部分の着物を捲られるというちょっかいも発生した。

「やだぁ」
「ハハハ、良いじゃないか」
甘える声で言えば直毘人さんは大声で笑い、ワンモアを希望してくる。はたから見ればキャバクラのようだが直毘人さんは満更ではなく、分かっていて楽しんでいるようだ。

恋はこうやって相手を探っていくものだ。燃え上がるような恋や修羅場を経験してきた身であるがどんな恋も、したてが一番楽しいのはよくわかっている。男の気持ちとしては早く抱いて自分のものにしたいのだろうが身体は誰にでも与えないの、だってそうでしょう、頼まれたらすぐ体を開く、安っぽい女じゃ男のハートなんて射止められやしないわ。直毘人さんには悪いが駆け引きも楽しみの一つ。体を触りたい気持ちは焦らして反応を確かめてみよう。
体温も上がり、酩酊状態になったところで着物が乱れた間にある直毘人さんの痩せた胸板をなぞり、頬擦りをしていく。誘うように。
歳を取った男性との経験は乏しいが、一応男ではあるのだから若い女との一夜と聞けば男の食指も動くだろう。ここで手を出されたらまたの機会に切り上げましょうか。
しかし私のちょっかいに直毘人さんは流石禪院の当主らしい振る舞いだった。女体が好きなところは変わらないが、身体を愛でるばかりで直接股間を当てたり、あるいは無理やりとはいかなかった。
安堵した、付き合いには一線を引いているのね良かった。そんな真面目なところがこの家が長く続く秘訣ね。なら合格だわ。それとなく会話を進め、プライベートなことにも踏み込んでみる。

「遊びはなぁ、昔京都にある××遊郭にはよくお世話になったんだが、今は遊んでないよ、もう歳なんでな」
「お遊びは気に入った子を毎度指名するタイプです?それとも毎回色んな子を?」

私が質問すると直毘人さんは目の色を変えた。直毘人さんが言うには私は生真面目で物静かな女性に見えるらしく、男性との遊びに詳しいタイプには見えなかったとのこと。
「あら、アナタのお膝に手を置いている時点で相当手慣れていますけど?」
私が言うと直毘人さんはニヤリと笑い、酒を煽った。照れ隠しのために酒を呑んでいるに違いない。その証拠にほら酒を飲んだ後もニヤニヤと欲情している視線が直ってない。素直な人ね。
熱い部屋にいると自分も熱ってきて羽織を脱いだ。チラリ。直毘人さんの視線が動くのが視界の端から見える。
目線が首の下に釘付けになっているよう。男性は何歳になっても男の人みたい。私は揶揄い気味に言った。

「どこ見てらっしゃるんですか」
「いやぁ形の良い若い女の乳房がまた見られるとは!困った困った、着痩せするタイプのようじゃ」
ほんと男ってスケベで単純なんだから。まあそういう人の方が裏表がなく、接しやすいという利点はあるけどね。
直毘人さんは案外乗り気で、さりげなく谷間に彼の腕に挟めてみたときもノッてくれたがそれ以上先に進むことはなかった。
素直に私の魅力に陥落してhがしたいと言ってくれたら良いのに。あと一歩で堕ちるというところなのに、思ったような反応が返ってこず、もどかしいわね。

果敢に攻めるかと直毘人さんの硬い二の腕に抱きつき、片手で肩をさすりながら、顔を近づけ耳に息を吹きかけるような囁き声で言ってみた。大胆な、夜への誘い文句だ。

「私なら直毘人様のお疲れ気味な肩、揉んであげますよ?」
「ハハ、若い女にこんなにアピールをされるとは俺も大きくなったもんじゃ」
直毘人さんは高らかに言い、私の背中に手を回してくれるだけで軽くあしらってきた。一層強く腕を引いてやったが欲情するわけにもいかないという態度だ。直毘人さんから見た私はなんたって彼女は姪っ子の真希と何歳差しか変わらない。まるで父と娘の年齢差だ。そんな若い娘が自分のような耄碌爺の相手をするなど一体何の差金か、直毘人さんのほうも真意を掴もうとしている。怪しまれているのかしら。私はそんなことなど梅雨知らず相手をしてくれないことを不満に思い、わざと悲しそうな顔を作り甘えてみる。

「案外強情なのね、乗ってはくれませんの?私の魅力が足りないのかしら」
「ハハハ、すまん、良いアピールだ、お前に堕ちた男も多いだろう」

乳を押し付ける下品なアピールも、強請るような可愛らしい顔もこの魅力全て、私自身が優れた人間から盗み、培った魅力。しかし、今の言葉はそんな計算高い自分に対する皮肉だ。
堕ちた男も多いとは、自分は数多の男のようにはいかないぞと暗に言いたいのだろう。



なんか興を削がれちゃった。はぁぁ。

「ガッカリです、私は同世代のがっつきやすい人より一回り歳上の落ち着いた大人な男性のほうが好みのタイプですのに」
「そうなのか、ならば俺のような老獪はやめた方がいいだろう、お前には早すぎる」
何が良くないかを具体的には教えてくれず直毘人さんはさっさと見切りをつけた。ずるい、逃げだよそんなの。それに、か相手から拒否の言葉が出たらいよいよこの作戦も終わりだ。
ため息を吐くと直毘人さんは口角を上げながら余裕の笑みを見せる。もしかしたら、直毘人さんは関わる人と関わらない人を第一印象からあらかじめ決めていて、彼に触れた瞬間から区別されているのかもしれない。もし一線を引かれてたとしたら自分は関わらない側だろうか。となると挽回は難しい。という自分なりの仮説を裏付けるように、直毘人さんは「お前のような若い娘を抱くほど歳の差趣味はないからな。決して魅力が無いわけではないぞ」と言ってきた。直毘人さんとお近づきになろう計画は見事に破綻。
私はプイとそっぽをむいた。

「あら素直に応じてよかったですのに。私ならその疲れた体を癒してあげられますよ」
「あいも変わらず積極的じゃなぁ」
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