導きの先(短編)

□そうだな
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「飛べる……っていいね。」
ぽつりとさくらが呟いた。
「さくらにも翼はあるし、飛ぶことも出来るだろう。」
飛べないのならまだしも…さくらは飛べる。何を突然言っているのだろう。
そうか……私とは違い、さくらは宙に浮くということは出来ない。
さくらの飛ぶとはただ空に舞い上がることだけではなく、空を自由に感じることなのかもしれない。
「月の羽、白く輝いてて飛んでても様になるなんて羨ましいな。」
「そうか………。」
さくらは普段から私の翼をそんな風に取り込んでいたのだな…輝いて見える、か…月のような存在なのだから羽も輝いて当然なのかもしれん。
だが…さくらの羽は透き通っている…背景と同化してしまう程に…
私は……そんなさくらを見つけ出せるのだろうか……守りきる事が出来るのだろうか…?
自由に旅をする鳥のようにどこまでも飛んでいって私の…手の届かない場所まで飛んで行かないだろうか…
「明日は雨なんだって、雨じゃあ空飛べないな。」
少し残念そうに笑った。
「風邪をひかれても困るからな。」
いや、それだけではない。さくらという存在が消えてしまわぬよう捕まえていたいのかもしれない。
さくらが迷わぬよう、主の元に帰れるよう…私は後ろからその姿を眺めよう。
いつの間にか眠たそうにしていたさくらの我が儘を聞き入れて寝室まで運び、布団をかけてやる。
まだこの日々を失いたくはない。

そう思うのは私だけではないはずだ。
しかし、いずれ無くなる日は来る。
その時私は…………新たな主を認め、仕う事が出来るのだろうか……
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