導きの先(短編)

□1番は駄目ですか?
1ページ/1ページ

ここに来て本当に良かったなんて幾度思っただろう。でもまだまだ言い足りない。それ位にクロウさんには感謝している。
それにクロウカードの守護者…ケルベロスと月…2人にも随分お世話になっている。
噂によると小さい私を育てるお手伝いみたいな感じで作ったとか作ってないとか…(ケロベェが適当にいちゃもんつけをしただけかもしれない。)
私は自信を持って皆の事が大好きだって言える。
大好きなのには変わらないのだけども……最近ドキドキすることがある。
「考え事か。」
風が気持ちよく吹く草原で寝転がりながら考えているとひょっこりと月が覗いてきた。
「ゆ、月………ビックリした…」
ドキッとした。
ビックリした、というのもあるけど…太陽の光を反射して煌めく銀色の髪、整った顔、温かみのある瞳。
「何を考えていた。」
一言、一言控えめに発せられる言葉に落ち着く声。
「んー…どこかに出かけてみたいなぁって」
本人の前で貴方の事を考えていました。なんて言えない。そんな事があればケロベェの様に口から火を吹ける自信がある。
「このままでは暑さにやられてしまうぞ。」
もう少し間近で見ていたかったけど、月は私の隣に寝転んだ。
「もう少しこっちに来い。」
「う、うん…」
少し寄るとぐっと寄せられた。
目の前に月の首筋が見える。
ち、近い……!!!!!近いです、月さぁぁぁん…!!!!!
さくら、人生最大のピンチ!どどどどどど、どう乗り切る??!!!
ドキドキ心臓がうるさくて顔が熱いのが分かって更にドキドキしちゃって……
少し涼しくなった……?
「私の翼で影を作っただけだ…こちらの方が落ち着くだろう。」
「あ、うん……ありがとう。」
な、何を1人でドキドキしてたんだろう?お、落ち着けさくら!
「……やはり顔が赤いぞ…日焼け、というのも体に悪いと聞いたぞ。」
落ち着こうとしていた所に顎を持ち上げられ強制的に目が合う状態に。
しかも顔が赤いことにバレてしまった……
「はわっ…………ぁ…」
また顔が一気に熱くなる。
「……具合でも悪いのか?」
「うううん??!!!全然元気だよ!!!!!」
ブンブンッと頭を思いっきり横に振る。
「そうか?………私も少し眠りたい、朝は早く起こされたものだからな。」
結構イラッときている模様。
月も寝ようと思って一緒に寝転んだんだ……
なら、安心……かな。
「夕方までここにいるぞ…」
私を抱きしめ、まるで抱き人形みたいになった。
こ、これは背中に手を回してもいいのかな……い、いや…それは起きた時に物凄く恥ずかしくなるからやめておこう…
月を覗き見ると既に目を閉じていた。

変な考えが頭の中を巡る……眠っていたら何をしたってバレないのではないか。
い、今ならき………………キスだって………………し、しても良いのかな………
キスって言っても口じゃないもの!!!!!ほ、ほっぺだもの!!!!!なななな、何を口にする前提で考えてるのバカバカバカ!私のバカー!
少し深く息を吐き、覚悟を決める。
そう、ちょっと……ちょっと触れるだけ……う、うん!大丈夫!
手を月の胸に添えて少し上に身を乗り出す。
ゆーっくり近づいてドキドキする心臓を無視して、あまりにも近い距離にギュッと目を瞑りながら近づく。
「…………………………何を…」
声が聞こえた。
「へっ………あっ……そ、その…」
「…何をしようとしていた。」
「ふぇ………い、いや…なんでも……」
「隠さなくてもいい……」
今度は向こうから目を閉じ、顔を近づけてきた。
そそそそそそ、そんな!だ、大胆な…??!!!
ひぃやぁぁぁぁぁっと心の中で叫びグッと全身に力が入る。
そっと触れたのは私のほっぺ。
そう、口じゃなくてほっぺ。
って何を期待しているの…!
それから鼻筋を少しくわえられた。
それから気配が離れるのを感じた。
………………
「どういう事かいまいち分かっていないようだな……好意を寄せるという事を……」
唇を指でなぞられる。
月の言葉はどういう意味なんだろう…。
でも嫌われていないし、からかわれているという響きでもない。
どこか悲しく呟いた言葉。
「月………?それって…………」
「分からずともよい、分からずとも………だが私にとっての護りたい者はお前だけになってしまいそうだ……いや、もうなっているかもしれん。」
自笑気味に言う月。
何か伝えたいのだけど、言葉が見つからなくて何も言えない。
そんな私をそっと見て、もう1度抱きしめた。
私も何だかこの時間が愛おしくて、堪らなくて、そっと背中に手を回して目を閉じた。

(探しに来たケロベェにどうかしたのかと尋ねられたが何も言えなかった。ただ、静かに手を握ってくれた月に嬉しく思った。)
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ