導きの先(短編)

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……………
「クロウおじさん…何を読んでるの?」
「これですか?…魔法の本です。」
ニコニコと笑って教えてくれた。
「まほー?まほう……さくらも読む!」
「おやおや、これは読んでも面白くないですよ。」
「読むのー………よむ……………」
「スリープ、すいませんね。」
………
「クロウさん、ただいま戻りました。」
「おかえりなさい。」
「あ……その本……………懐かしいですね。」
「そうですねぇ。あの時はまだ5の時でしたかね。」
「今なら読んでも良いでしょう?」
「そうですねぇ…………教えても良いんですけどねぇ…」
「読みましょう!」

クロウさんの手はいつも大きくて優しい。男の人の手はみんな大きいけれど、クロウさんの手は不思議だった。
頭を撫でてもらうと安心出来るし心地が良い。
ずっと頭を撫でてもらっていた時なんていつの間にか寝てしまっていた位だ。
そんな事を何となく思い出して、空を見上げる。
屋敷の屋上はいつも緩やかな風が吹いている。遠くには街が見えるけど、あまり行ってみたいとは思ったことがない。
旅行はしてみたいと思うけど。
ふと横を見ると片足を上げ、楽な姿勢でどこか遠くを見据えている。
そんな月の手を見つめる。
筋張って、白く透き通っていてやっぱり創られた人なんだと感じるけれど、大きな手だった。
そっと手を取ってみる。
1度の瞬きからこちらに視線が向けられた事を感じた。けれども自分の手の中で月の手を感じる。
………いつもこの手で守られているんだよね。
頬に月の手をそえる。特に意味は無いのだけど…
月の手がそっと頬を撫でる。それがしっかりと捕まえる様になった。
「どうした。」
お互いの息を感じる程近い顔。
「うん……………手、大きいなって思って…」
目をじっと見ていると吸い込まれてしまいそうで、怖くて目線を下ろす。
「そうでなければ…守りきれないからな。」
クロウもお前も。ケルベロスのような体は持ち合わせていないが、翼で、全身で守る事が出来る。
「それに、勇気と言うものも与えられるだろう?」
「うん…頑張れる気がする。月の手もきっと不思議な力を持っているんだね。」
「そんなもの持ち合わせていない……それはさくらの方だ…」
「私…?」
「………………」
再び視線を戻すと瞳は閉じられていて見えなかった。
頬にそえていた手は後頭部を持ち、徐々に押し倒されていた事に気づいた。
「ゆ、月………?」
戸惑いを隠せず、声が震えた。
左腕は右脇の下から背中に回されていて逃げようがなかった。
「さくら……………」
回されていた腕に押され密着状態。
も、もしかして甘えられている…?う、嘘でしょ…?!こ、こんな甘え方があるの?!わ、私はな、何をしたら良いの…
……………そうだ、いつも撫でてもらってるからたまには私が撫でてみるのも良いのかな。
遠慮がちに頭をそっと撫でてみる。
「……続けろ…」
…………えっ?も、もっとって事…??!!!
こ、こんなの珍しい…………しっかりと心と目に焼き付けないと…!
「………………………」
「ひゃっ??!!!」
バッと勢いよく月を押し出した。
い、いいいま首をな、なななめ…??!!!
「…………………」
空を飛んで戻ってきた月は、それはそれはとても不機嫌な顔をしていた。寝起き並みに機嫌を損なわしてしまったらしい。
「ご………ごめんなさぃ………」
「……………いい。」
怒ってるのが分かるから怖くて、動けなくて。
と、月が私を徐に抱えて玄関の前に降ろした。
「ケルベロスを呼んでこい。」
「う、うん!」
ケッケロベェェェェ!ごめん!!!!!月の鬱憤ばらしに付き合って!!!!!
(無事見送った後遠くから悲鳴が聞こえた。)

「月、相当機嫌が悪いようですね。」
と言う割にはとても楽しそうに笑顔を輝かせている。
「あ、まぁ…私のせいだけど………」
「まぁさくらには怒ってませんよ。」
本当かな………?
「あ、あのクロウさん」
「どうしましたか。」
「男性の手はどうして大きいの?クロウさんも月も大きな手をしているから…」
「さくらもその様な事を気にするのですね。」
「わ、悪いですか。」
「いえ…そうですねぇ、どうしてでしょうねぇ。」
絶対に知っているだろうに教えてはくれない。意地悪クロウさんだ。
(それは大切な人を守る為だと言えば、貴方は手を大きくしたいと言うのでしょう。)
その様な事をしてしまったらまた月が嫌がるでしょうねぇ。でも、それもそれで面白いかもしれない。
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