導きの先(短編)

□ココロのうつわ
1ページ/1ページ

「幸せですか。」
「…………」
夕食の支度をしていた時にいきなりさくらが聞く。
「どうしたんや?何か不満でもあるんか?」
「私は特にないよ!でも2人はどうなのかなって。」
いきなり何かを聞いてきたりするのは今更珍しい事ではない。特に驚きはしないが質問する内容が気になる事はある。
「わいはなぁ…美味しいもんいっぱい食べれて、クロウとさくらの傍におれてほんま、ほんまに幸せやで!」
「ケロベェ幸せいっぱいの顔してる…!」
ケルベロスは気持ち悪い程に顔を綻ばせ、前足を合わせ天を見上げていた。
「月はどうなんや、いっつもムスっとしとるけど。」
失礼な、私は元からこうだ。
と、思わずにはいられなかったが…考えた事はない。だが…私は私が幸せになるのではなく……
「クロウとさくらが幸せに感じているのならそれが私の幸せだ。」
「また難しいこと言っとるわ……」
「月らしいと言えば月らしいよね。」
それは褒め言葉なのかどうかは分からない。
「先程ケルベロスが不満はないのかと聞いていたが、お前は幸せなのか?」
「もちろん!幸せ!!」
輝かしい程の笑顔をさしむけた。
「やっぱりさくらには笑顔が一番やで!」
それは私も同感だ…いつまでも笑っていてほしいものだ。
「でも月もちゃんとした幸せ感じてるのかな…?」
「本人が幸せや言うとるんやから幸せなんやろ?」
「じゃあさ、ケロベェはどんな時に幸せだなぁって感じる?」
「せやなぁ………さっきも言うたけど…甘いもん食べとる時とかさくらの美味しい、美味しいご飯食べとる時とか、あとはやっぱり隣におれる事やなぁ。なかなか帰ってこうへん時なんか心配で、心配でたまらへんわ!」
「あはは…ごめんねぇ。」
「ほんま、買いもんが長あなった言うてもあんまりに遅うなるとこっちは何かあったんとちゃうか…迎えに行かんとあかんのちゃうか…って真剣に思っとるんやで!」
「買い物って大体長引いちゃうものだから、ね?」
「月なんか予定の時間より遅うなったら5分毎に窓から様子見しとるし、30分経つと玄関でスタンバッとるし、ほんまおもろいわ!」
「え?!月そんな事してたの?心配性なんだから!」
ケルベロス…余計な事を言いおって…!!!!!
「街には変な輩もいると聞く。何かあればすぐ呼べといつもいっているが……」
生憎……信頼していない訳では無いが道に迷う、よく転ける、おっちょこちょいで心配の種は減るどころか増える一方…
「何ならわいもついて行って良いんやで。」
「ダメですー!ケロベェがいるとあっという間にお金が飛んでいっちゃうんだから!」
「私は何故ついて行かせない?」
「え、えーと…何だか月がいると、ついつい聞いちゃうから独り言が多い子みたいで嫌じゃない…」
少し照れながらも白状した。
「何やそれー。」
「ケロベェはあれも欲しい!これも欲しい!って私まで流されちゃうから結局は余計な物まで買っちゃう事になるんだから…」
「月やって何か言うやろ?!」
「月はそんな事を言うどころか、何も喋らないよ。何でも知ってそうだからこれどうかな?とかこれで良いと思う?とか聞いちゃうんだよね〜。」
「それ聞いて何て言うんや?」
「ん?んー…例えば、あぁとかそれで良いのか?とか…………って助言どころか確かめられているだけ…?!」
「あっはは!なんやそれぇ!」
「勝手に聞いて確かめられて勝手に自信持って、って……!うーー………」
「さくらの判断に間違いはない…私がどうこう言う必要は無いからな。」
それに一生懸命考え込む姿もなかなか面白い。が、これは黙っておこう…
「月、笑ってる。」
「…?」
「月が笑うわけないやろー?」
「わ、笑ったもの!ちょっとだけ!」
「ちょっとだけって気のせいな感じやんか!」
「月だって笑いますー!ね、今楽しいなって思った?優しい顔してるもの。」
「わいにはようわからんなぁ…」
私自身気づかなかったが無意識に笑っていたのかもしれん。確かに心というものが安らぎを感じている。
「人はね、幸せを感じてる時は嬉しい顔にも、優しい顔にもなるんだよ。その内月もケロベェみたいに笑ったりして!」
「うわぁ…全然想像できひんわぁ…」
これが幸せ……というものか。ならば…私はきっと……
「それが本当なら、私はいつも幸せを感じている…」
「本当?嬉しいなぁ……もっと幸せになろうね。」
「おっしゃー!わいも幸せになるでー!」
「あっ!つまみ食いでは幸せになれません!」
「なれる、なれるー!あーー幸せやわぁぁー!」
「もう!ケロベェ!」
しかし幸せは続かないとも聞く。
………私の悪い癖だな。素直にこの幸せとやらに浸れば良いのだ。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ