羽に包まれて…(物語)

□One
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「私の家はとても素敵だったの。白塗りの壁に緑の屋根。広いリビングにキッチン……寝る時はお母さんとお父さんの間で寝てたわ。お出かけしましょうと言われた日はワクワクして……抱っこしてもらっていろんな所を飛んで回ったわ。」
とても楽しそうに話すさくら。
「もう朧気にしか思い出せないのだけどね…とてもいい日々を過ごしていたと思う。でも、もう帰りたいなんて思わないわ。きっと残酷な真実を知る日が来るだろうから…」
寂しそうに、恨み言の様にも聞こえた。
「…でもね、圧倒的にこの暮らしの方が好きなの。大好きなクロウさんとケロベェと月と静かに暮らせるここがね。」
無邪気に笑う。
「それに…お母さんとお父さんのお墓にも行けるし、見守ってくれているって思うの。だから、もう悲しくないの。」
「そうか…ならば、それで良い。嫌な思いをする必要はない。」
「うん!今頃普通の暮らしをしていたら私は、どう思っていたのかな…つまらない日々に飽き飽きしてるかもしれないな。それで、結局はここに降りて……お忍びをしてたかもしれないね。」
「辛い事も含め、これは運命なのだ。起こらない事を言うな。私達はどうなるのだ。」
「ご、ごめん。でもね、時々考えるの。ずっと空で過ごしていたのならって。でもね、どう考えてもつまらないものになってしまって、ここが一番だなって…いつもそうなの。」
私はその言葉に救われた。
もし、あちらの世界に未練があり、私達の元から飛び立ってしまう事があったら…
私達には到底追いかける事も出来ない。引き止める事さえ……だから、ここにいて楽しいと思っていて、あちらの世界には興味が無いと聞いた時は、それはとても嬉しく感じた。
帰るなど言ったら私は……平常心を保てただろうか……いや…

「どうですか。魔法は使える様になってきましたか?」
「あ、うん。それなりにはね。一気に何枚も使うと疲れちゃうけど。」
「では…そろそろ試練を受けてもいい頃あいですかね…」
「ん?」
「早く使いこなせると良いですね。」
「うん!クロウさんを皆を守りたいもの!」
出来ればそんな事はさせたくない。だが……これはさくらが自ら望んだこと。
試練………まずはケルベロスから受けさせてみましょうか…
私の見込みが間違っていれば大怪我させる危険も………
いや、大丈夫な筈です。さくらはとても強い子ですからね…
試練を見るのが楽しみになってきました。さぁ月はどう思うでしょう。

「何をお考えなのですか!クロウ!!」
「わいはいいと思うで。いつまでも見習いのままやったらいつかは成長が止まってしまいそうやからなぁ。」
「ケルベロスッ!何を言っているんだ?!」
「それとも、月は怖いんか?あんまりさくらを甘あ見いひん方がえんとちゃうか。」
「………………失礼します。」
「何や、なんや。帰ってまうんか。」
バタッ!!!!!
「………………ふぅ……」
少しムキになりすぎた。だが…もし、さくらが判断を間違えてしまうと、彼女はもう二度と魔法を使わなくなってしまうかもしれん。
痛々しい姿を見るなど私には出来ない。

「怒られてしまいましたねぇ。」
「月は頑固やからなぁ。それに、傷つけたくないんわ、わいも一緒やのに。」
「いざという時は守ってやってくださいね。」
「その時は失敗という事やんな……さくらには是非後継者になってほしいけどな…」
「まだもう少し時間は置きます。ケルベロス、心配なら特訓してやりなさい。」
無事に試練を乗り越え、少しでも自分の力で身を守れるようになってください……
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