私が散りゆくその時は〜IX〜
□プロローグ
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「はあ…ホント尊い…ジタンカッコいい…」
最近久々に始めたFF9。
ふとやりたいと思い、五年前に母さんに貰ったPS2を引っ張り出してきた。
何年間触ってなかっただろうか。
出してきた機械には、結構な量のホコリが被っていた。
「あ、もうこんな時間なのか…稽古行かなきゃ。」
ワールドマップに出て、四角ボタンを押す。
『ピロリロリロリーン♪』と効果音が鳴り、海の中を突っ切ってくるのは、みんなお世話になっているだろう、モグオ君だ。
セーブして、来た道を戻るモグオ君を見送り、電源を切る。
部屋の脇に置いてある防具と竹刀とスポーツバッグを玄関へ運ぶ。
「いってきます。」
家の外にある自転車の荷台に防具を括りつけて、返事の帰ってこない部屋をあとにした。
武道館へ行く途中、お茶を買おうとコンビニへ寄るのがいつもの日課。
いつものどこかやる気のないアルバイト店員とおばちゃんの店長さんがレジにいて、そこそこ混んでいる店内を移動する。
すると、1人の客とすれ違った時に、違和感を覚えた。
「っえ…!?…いやー…ないわー…。」
つい先程まで、画面の向こう側で見ていたクジャに似た人を見た気がした。
でも、振り返ってもそこにはそんな異質な姿は影も形もない。
「好きすぎて幻覚でも見えるようになったかな…あはは…笑えねえ…。」
目的のお茶を取り、あのお菓子食べたい、とか思いながら、スイーツコーナーを横目にレジへ向かう。
その時。
「…っい、ぁ…!!!」
頭に割れるような痛みが走る。
何これ。私偏頭痛持ちじゃ無かったと思うんだけど。
(痛い、痛イ、いたい…イタイ…!!!!)
立っていることもままならず、膝から崩れ落ちる。
周りのお客さんや、店員さんたちが慌てて駆け寄って来る。
何か声をかけられているのだが、何も聞こえない。
『______見つけた。』
と一言、聞こえた様な気がして、瞑っていた目を開く。
しかし、わたしの体はヤバいらしい。
ついには座ってすらいられなくなり、床に倒れ込む。
その瞬間に見えた人混みの中に、美しい顔で、銀の長髪の異質な姿をした人が、私を見て妖艶に微笑んでいるのが私の視界に映り込む。
手を伸ばす。しかし、力が入らない腕は、そのまま床に落ちる。
瞼がゆっくりと落ちていく。
こんなときに考えることは、せめてデータクリアしてからが良かったな、とか、先生に連絡しなきゃ、とか、今夜のバイト出ないと生活費ヤバイのに、とかそんなことばかりだった。
(…どーでもいーことばっかだわ…眠い…。)
私は、落ちていく瞼に逆らおうともせず、ただ流れに身を任せた。