御狐様の日記帳
□三話
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首輪をつけられたけど、だからって特に何かあるわけでもなく、その日はグッスリと眠った。
次の日、カルカッタからバラナシへ移動することに。スッゲー遠出だ。移動だけで疲れる。
『何で飛行機使わないの?飛行機じゃなくても、この世には便利な乗り物はたくさんあるんだよ。そんなことも知らないの?』
そう言ったら、皆の眉間に皺が寄った。そして、ものすごい勢いで詰め寄られた。
「DIOがッ!イチイチイチイチッ!移動の邪魔をするからッ!こんな目に遭っておるんじゃぞ!」
「ぼくだって使えるなら飛行機使いたいですよ!一気に飛んで終わらせられたらどんなにいいか!」
「移動する度に邪魔してくるDIOの手下のせいだろうが!移動する先々で待ち伏せしやがって!」
「てめー、ホント腹立つことしか言わねーアホキツネだな、ああ?」
余計なことを言ったみたいで失敬失敬!と謝って、何とか場をおさめたけど、トゲトゲした空気は変わらずだ。
偽物の信頼関係を築くどころか少し綻んじゃった。残念。
あと、一応味方であるネーナさんとトイレで女子会した。ジョースター御一行の中のオジイチャンを殺るつもりらしく、邪魔をするなと言われた。
『大丈夫、邪魔しないよ!ネーナさんの手柄を奪うつもりなの!』
「あんた本当に仲間!?今の発言、信じられないわ!」
『だって……殺して横取りするくらいしか出来ないもん……』
「しかも私を殺すつもり!?どんだけ最低最悪なの!?……でもさぁ、あんたアレじゃん。あのー……空条承太郎に気に入られてんじゃないの?ピッタリ引っ付いてんじゃん。主にアッチが」
『そんな人知らないよ』
「名前くらい覚えてやりなさい!あー……もー……学生服着てるデカイ方のヤツ」
『憎き敵ィ!って……ジョータローって言うの?』
「ええ。その空条承太郎に気に入られてんなら話は早いじゃない」
『どう早いの?』
「夢中にさせて落としちゃえばいいのよ」
『……夢中にさせて落とす……』
「そうそう、例えば……二人きりになって、ベッドに誘って、隙をみて、ね?……ベッドの上って、けっこう油断してるもんよ」
『二人きり……ベッドに誘う……ベッドの上……油断してる……分かった!頑張って誘ってみる!』
「でもあんたってガキだからどうかしらね」
『ダメなら頼み込んでみるね!』
「だめだわ、これ」
っていう、女子会を終えて、それから一人悶々とジョータローを夢中にさせて落とす作戦を立てていた。
そんなこんなしてるとバラナシに到着。まだ何の作戦も決まってないのに!でも、到着したものはしょうがない。
オジイチャンはネーナさんのスタンドを取り除きに病院へ。ポルナレフさんはネーナさんの餌食に選ばれて二人で行動。花京院さんは一人何処かへ。残されたのは、憎き敵と私の二人だけ。チャ〜〜〜ンス。
まずは、休憩がてらカフェに入ってお茶をすることに。お疲れのご様子の憎き敵の隣に座り直してニコニコ笑顔で質問した。
『あのね!ご主人様を夢中にさせて落としたいんだけど、なにをどうしたら夢中になってくれる?』
「…ゴホッ…、……何だよ、いきなり」
憎き敵がむせた。心なしか驚いてるように見える。
『夢中にさせて落としたいなって!屋根から落とせばいいの?』
「……何で夢中にさせる相手を屋根から突き落としてんだ……」
『じゃあ、どうやったら落ちるの?』
一応先に言っておく。これらの質問はワザとやってる。夢中にさせて屋根から落とすって、こんなアホは居ないだろ。どこぞのスクールデイズ並にヤンデレ過ぎるわ。
今のは"あなたを夢中にさせて落とす"とワザと宣言して、あれ?コイツ俺に気があるんじゃね?……え?マジで?って意識させる作戦。男女共に有効なアプローチだ。
「……そうだな、無いってこともねーぜ」
『ホント!?なになに!?』
「またやってみるか、オモラシプレイ」
うん、ごめんね、ご主人様を夢中にさせる前に、私が夢中になれなかった。また夢中にさせようって思えるまで、今しばらく待っててね。って言いたいのを堪えて、とりあえず笑顔で一時停止。
何かまた言い出しましたよ、この人。何なの、鬼畜変態って知ってるけど、ここまでだったの?イケメンさんなのに残念無念。
でも、憎き敵をぶっ殺す為にも、夢中にさせて落とさなきゃならない。そして、ベッドでグサリ!……トイレじゃないのが悔やまれるが、この際もう仕方ない。
まっ、オモラシプレイっていっても、つい昨日やったばっかりだし、憎き敵に見られたところで今さらだ。恥ずかしさなんて、昨日のおしっこと一緒に流し……私の羞恥心がここまで破壊されてる!!?
クソッ!憎き敵のせいでオモラシプレイの難易度が下がりまくってやがる!普通なら羞恥心でおかしくなるぅ!ってなるのに!うわーん、絶対にぶっ殺して羞恥心取り返してやるーっ!!
よし、ぶっ殺す為に、オモラシプレイやろう。サッと出して、憎き敵を夢中にさせよう。大丈夫、私なら出せるぜッ!
『……やる……』
「別に無理しなくていいんだぜ」
『いいの!やるの!やりたいの!ご主人様を夢中にさせる為に!やらせて下さい!』
「……移動するか」
『はい!頑張ります!』
出しやすくする為に、残っていたアイスティーを一気に飲んで、もっと出しやすくする為に、氷をガリガリ食べた。
憎き敵はその様子をみて「飢えた犬みてーだな」と笑った。可愛くて良い笑顔だったから釣られて笑った。
『キツネってイヌ科!』
「哺乳網ネコ目イヌ科な」
『へえ!そうなんだ!』
「おいおい、自分の事だろ」
『うん?キツネでも人間だよ!当てはまんないよ!』
「……それもそうか」
本当に人間扱いしてねーのなって心の中でつっこんで、オモラシプレイをする為に移動を開始。ご主人様は悩んだ末、どこぞの建物の屋上に私を連れて行った。
この建物以上の高い建物は無いけど、ここにトイレは無い。景色を見に来たって流れを信じたいけども、憎き敵はポケットからリードを取り出して、「オスワリ」と言ってきた。
マジモンだぜ、こいつァ。
「ほら、オスワリ」
ここで座ったら間違いなくここがトイレになってしまう。違う、トイレはここじゃない。こんな場所がトイレであっていいはずない!私は認めないッ!
ブンブンと首を横に振ると、はぁっと重いため息を吐いて、無理矢理リードを繋いできた。
「どうした?夢中にさせるんじゃあねーのか?」
『…ッ…でも!ここ!』
「別に何処でもいいだろ」
ダルそうに言った憎き敵の言葉で、トイレの価値観のズレを発見した。
そもそも男性のトイレ自体が同性に見られて当然みたいなものだ。壁もなく、便器剥き出し状態。それが当たり前。
女性は違う。それぞれ個室。便器剥き出しで見られるなんて論外。あり得ない。
それに男性はいよいよになれば平気で外でしたりする。今日だって移動の途中で仲良くやってた。マジで最低。あり得ない。
つまり、これ程までにトイレについての価値観のズレがあるってことだ。
マズイ、どうしよう。やりますって言った手前、やっぱり止めたってなると、新密度が一気に下がりそう。やはり切実に"ここはトイレじゃない"って事を訴えるしかなさそうだ。
『女の子は…何処でも…出来ないよ』
「…………あ?何言ってんだ?」
『ここはトイレじゃないの!』
何故かシーンとした空気が流れた。そりゃそうだ。価値観が違うんだもの。理解するまでに時間はかかると思う。でも、今ので伝わればいいんだけど。
チラッと憎き敵を見ると、口元が楽しそうに笑ってて、私は全てを諦めた。もうダメだ、詰んだ、たった今、ここがトイレになったってやつだ。
昨日からの付き合いだけど、やれと言ったらやるまでしつこく待つ鬼畜変態タイプってのは知ってる。
まぁ、つまり、こーいうことだ。
「……ほら、……ここでやれよ」
たった今、ここがトイレと化しました。