御狐様の日記帳
□九話
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そんなこんなでイロイロな覚悟を決めた私は、DIO様のお屋敷へ。着いた頃にはもう夜だった。
ここまで送ってくれたホルホースは、
「次の目的があっからここでお別れだ。また会おうぜ、可愛いキツネちゃん」
と、投げキッスをして去っていった。もう二度と会えない気がしたけど、笑顔でサヨナラを告げた。
『…………』
それから、お屋敷の玄関先でじっと立ち尽くしてる。中に入って行くだけなのに、足が一歩も動かない。でも、そんな私をペットショップがガン見してくるのだ。
『分かってるよ、さっさと入れって言いたいんでしょ。門番係も大変だね』
「……」
『あのね、そう目で訴えてもね、私にも都合があるの。勇気がいるの。心臓バクバクで死にそうなの』
「……」
『だ〜か〜ら!そんな見ないでよ!何でプレッシャーかけてくんの!?テリヤキチキンにして食べちゃうよ!』
「……」
『ぎゃー!ごめん!ごめんなさいったら!謝るからつつかないで!痛い!穴が開いちゃう!』
「……」
『え?何?深呼吸しろって?なにそのナイスアイデア。さすがペットショップ様!よし、やってみるね!』
スゥ〜ハァ〜と何度も深呼吸。でも心臓のバクバクが落ち着かないし、むしろ時間経過と共に速まってった。
『……明日……出直すか』
「……」
ここまで送ってくれたホルホースに申し訳無いけど、もう一度自分の気持ちの整理をしたい。キレイに整理した上で、お屋敷に帰ろう、そうしよう。
くるっと回れ右をしてスタッと一歩を踏み出すと、ボフッと何かにぶつかった。痛む鼻を押さえて顔を上げると、麗しのDIO様が立っているじゃあないですか!
「おかえり」
『……』
「いつになったら入るのかと観察してたが、……ペットショップと『ぎゃぁあああ!!?』……」
会いたくない人に突然会ってしまって大パニックを起こした私は、DIO様から逃げるようにお屋敷の中へ。
ダダダダッと走ってたつもりが、またもボフッと何かにぶつかって、今度は体を抱き抱えられた。くそ、時を止めたな!DIO様に見つかった以上、逃げ場はナシってか!
「何も逃げることはないだろう」
『だって!だって!』
「お前が勝手に居なくなったおかげで、わたしは常に空腹だ。他の餌は不味くてたまらん」
『うー……』
「色々と聞きたいことはある。……が、……まずは腹ごしらえをさせてもらうぞ」
『……』
「返事」
『…はい…』
反抗心すらへし折られた私は、お食事を拒否することなく、DIO様に担がれたまま、DIO様のお部屋へ。
デカイベッドにおろされた。うつ伏せになると、DIO様が跨がってきて、噛みやすいように髪の毛を束ねてきた。
「……ほう、……ジョースター御一行の中に吸血鬼でも居たのか?」
『…っ…』
DIO様の言葉に心臓がドクンっと音を立てた。ジョータローが噛んだ痕、それを見られてしまったのだ。
さっそく本題に突入してしまった。色々と言うことを考えてたのに、いざ本番となると頭の中が真っ白だ。
『…あのっ………これは……』
「……わたしを見ろ」
どうしようと首の痕を手で押さえて、冷や汗ダラダラのまま寝返りを打った。パニックで身体も震えて、DIO様はそんな私をジッと見下ろしてる。
いつもならキャーキャー言って抱きつくけど、目を合わせるのも、触れ合うのも、今はキツい。だから、目から出てくる水滴をそのままに、枕の端をギューッと握り締めた。
「……泣くな、…コン…、……もう大丈夫だ。……怖かったな」
DIO様の冷たい手が頬に添えられて、優しくそっと指で撫でてきた。その優しさがツラい……なんて、贅沢だ。DIO様の元に帰ってこれたのに、今のこの状況を喜べないなんて。
鬼畜変態野郎と変態プレイをして、大人の階段を登って、変態ドMを自覚して、処女すらも!でも、どれもこれも自分が蒔いた種だ。自業自得なんだ。嫌われたって仕方ないの。
今までのことを正直に話そう。始まりはオモラシプレイだったと、首輪とか縄とかイロイロなプレイをして、最終的にはナカにもソトにもぶっかけ祭りだったと。正直に話して、……潔く嫌われよう。それが一番、自分の中でスッキリするかも。
『……っ……』
覚悟を決めた私は口を開いた。あとは言葉を出すだけなんだけど、DIO様の手が口を塞いできたのだ。
「……それ以上何も言うな。……言わんでも分かる。……承太郎にヤられたんだろ」
『……』
「だから屋敷を出るなと言ってたんだ。自業自得だぞ、このバカ者が」
そう言って顔の横に肘をついて、おでこにキスをしてきてくれた。嘘をついても意味がなかった。全部バレバレだったのだ。知った上で、こうしてキスをして。
つまりそれは、……処女じゃなくなった私を受け入れてくれたってこと?それを聞くのが恐い。でも、もしそうなら……
『…DIO様…』
「…ん…」
恐る恐るDIO様に手を伸ばすと、嫌がる素振りもなくて、むしろ、その手にチュッとキスをしてくれた。
「……図体のデカイ大男にムリヤリされるなんて……怖かったろうに……」
『……ん?』
「……こんなにも可愛い可愛いキツネを!我がキツネを!ムリヤリ組敷くなんぞ同じ男としてあるまじき!見損なったぞ、ジョースター家め!」
突然怒り始めたDIO様のお言葉に首を傾げた。私がジョータローにムリヤリされたって勘違いしてるけど、実際は違う。
一応合意っちゃ合意。処女に関しては別だけど、【一緒に寝る】っていう意味を誤解した結果であって、その前の出来事を含めてトータルで考えると、どちらかといえば私が悪い。勘違いもするだろう。
でも、DIO様はジョータローが無理矢理ヤったと勘違いして、これは犯罪だ、次に会ったら殺すと騒いでる。無実のジョータローが犯罪者扱いだ。
……いいね、それ。そうしよう。ジョータローに全ての責任を押し付けて、私は被害者ポジションに収まっていよう。
そうすれば、DIO様に優しくしてもらえるし、罪悪感に囚われずにDIO様と生きていけるし、あながち間違ってないし。
ジョータローがちょっと可哀想だけど、処女を奪った罪でオアイコだ。むしろ、DIO様に殺される運命だから心配しても意味ナシ。貴様の存在はこのキツネ様が有効活用してやるぜ。有り難く思うんだな!
『スッゴク怖かったの。イヤだって言っても聞いてくれなかったの』
「……可哀想に……、……もう大丈夫だ、安心しろ。わたしが強姦魔から守ってやる」
『…DIO様…』
「…コン…、お前が無事にわたしの元に戻ってきた、……それだけで充分だ」
イイコだ、そう言って、何度もおでこにキスをしてくれた。嬉しいけど、また今さら罪悪感にまみれて、言葉にし難い想いが涙になって溢れ出てきたのだ。
何であの時、私は……って、後悔したってもう遅いのに、悔やまずにいられない。処女はDIO様に捧げたかった。
『……DIO様、……あなたに捧げるモノが……何もないの。……なくなってしまったの』
「……まぁ、わたしにとってお前の処女など心底どうでもいいんだがな」
DIO様の発言に目を見開いてしまった。もはや言葉を出せないほどショックだ。
けっこうイイ線いってるって思ってた自分が恥ずかしい。イイ線どころか一方通行だった。処女を捧げる以前に、受け取り拒否だったのだ。
『……そうっすか、どーでもいいっすか』
あからさまに落ち込んでしまった私に気づいたDIO様が言葉を続けた。
「あー……いや、そうじゃあない。恋人でもないわたしにお前を束縛する権利はないってことだ。逆も然り。それに、わたしは他の女と寝ていた。……オアイコ……というより、わたしの方が酷いもんだな」
『……』
「……お前が大人になるまで気長に待とうと心に決めていた。だから……何だ、その……今まで言葉にしなかったのは……悪かったと思う」
『……』
「……」
『言葉って、なに?』
言葉の意味が気になって、それを促すと、DIO様の手が濡れた瞼を拭った。酷く安心するそれにすり寄ると、チュッとおでこにキスをして、そっと抱きしめてくれた。
温もりで伝わるモノがある。
ハジメテを守れなかった私にそれを貰う資格はないけど、DIO様が許してくれるんなら、……それが欲しい。
ずっと欲しかったモノ。次こそ大切にするから、絶対に守るから、それが、それだけが欲しい。
「……」
『言ってくれないの?』
「……言葉にすると呪いみたいだと思わないか?」
『DIO様がかけてくれる呪いなら大歓迎だよ!むしろ呪って!受け入れる準備は万端なの!カモンカモン!』
「……」
『……ダメ?』
「あー……なんだ、その……ゴホンッ、……お前のことは、ずっと大切に思っていた。誰よりも、……お前だけを、……わたしのそばにいてくれ」
囁かれるように言われた言葉が、グルグルッと心に巻き付いた。
まるで茨のようだ。きっとこの茨は一生外れない。取ろうとすると、トゲが深く刺さって……そこから膿んで腐っていく。腐らせないためには……この茨を外さずに、大切にするしかない。
『ずっと、これが欲しかったの。大切にするよ。……DIO様、大好き!』
ずっと欲しかったこれが、たまらなく愛しくて、何かもうどうしようもなくなって、自らDIO様に口付けをした。