御狐様の日記帳
□2話
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俺が5才の頃、キツネの耳と尻尾の生えた女の子を拾った。ガキ頃の話だからあんまし覚えてねーけど、その日から家族になったのは覚えてる。
あの日、俺は恋に落ちた。お袋も、じぃちゃんも、俺の気持ちを知ってる。知らないのは本人だけ。俺の一方通行。本当によくある話。
でもアイツには付き合っている男がいるらしい。その男についての絶対教えてくれねーけど、『ずっと待ってる』って呟いた時の、あいつの表情だけは忘れねえ。
5年前、アイツは引きこもった。死んだみてーに寝っぱなしで、誰が声を掛けても上の空。ボロボロ泣いては寝てを繰り返してた。
慰めてーけど理由も分かんねーし、下手なこと言ったら余計に傷つくと思って、付かず離れずの距離で接してた。ようやく分かった理由は、「彼氏が亡くなってたかもしれない」だと。
これは慰めようもないやつ。俺に出来るのは、立ち上がるその時がくるまで見守ることだけ。好きな女すら笑顔に出来ない自分が心底悔しいけど。
でも将来的にアイツの面倒をみれるのは俺しか居ないし、アイツに苦労だけはさせるかと、安定した職を選べるようにそれなりに勉強を頑張ってた。
ようやく立ち上がったアイツは仕事を始め、何故か尻軽女になった。
それはそれはジョースケ君の純情がぶっ壊れるほど、コロコロコロコロ男を取っ替え引っ替え。何となくで付き合ってすぐ別れての繰り返し。最短で5日の時は、さすがの俺でも「そーいうのやめろって」と助言した。
『付き合わないと運命の人かどうかなんて分かんないじゃん』
「お前の言う運命の人ってどんなだよ」
『私の全てを満たしてくれる人』
「ははーん、ワガママきいてくれる都合のいい男ってことね」
『ううん、セックス上手な人』
「うわー……」
あれは本気で引いた。引いたけど嫌いになれなかったから、俺もアイツの言う【つまらない男】の1人なんだと思う。でもそれを言うとアイツだって【つまらない女】の1人だ。
アイツは亡くなった恋人の面影を探してるってことに気づいてない。そんなの誰も満たせない。満たしてあげてーけど、亡くなった恋人じゃねーから、誰もムリ。それを出来るのはソイツだけ。お互いに、不毛な恋もいいところだ。
っていう悟りをすでに開いた俺って何なんだ。どれもこれもアイツのせい。あれよあれよと俺のハジメテすら奪いやがって。しかもトドメは性道具って。キツネの皮を被った悪魔か、アイツは。
おかげで思い上がることもなかったし、冷静にアイツを見るようになったけど。それでもーー
『あっ、ジョースケだ。学校は?』
悪魔にハジメテを奪われた日から、早いもので1ヶ月。秋といってもまだ暑い。リビングのエアコンの調子の悪さは相変わらずで、全然冷えねえリビングでゲームやってたらアイツが来た。
こんなにもくそ暑いからって、キャミソールはどうよ。しかもノーブラ。でもその肌を隠すように、ソファーに寝転んでタオルケットを被った。もっと見せろと思った。
「んー……だりぃから休む」
『ずる休み、ママにチクっちゃおう』
「勘弁して、マジでダルいんだって」
『ふーん。夏バテ?いや、秋バテ?』
ダルさの原因はコイツにある。この1ヶ月で早くも2人の男と付き合った。俺のハジメテを奪ったくせに、もう他の男とか意味が分からねえ。思い上がってたわけじゃねーけど、心にくるものがあった。しかも毎日誘ってたくせに、男と付き合ったら俺は放置。【お役御免】と書かれた紙を部屋の扉に貼られてた時は、久しぶりに殺意が沸いた。
どうせ俺は都合のいい性道具でしかなくて、コイツを満たせない【つまらない男】の1人。それ以上も以下もなく、それだけの関係。
仮にもし俺がそれ以上を求めたなら、コイツは当たり前のように俺を捨てる。面倒だって適当な言い訳を並べて、あたかも俺が悪いって言わんばかりの態度で逃げるに決まってる。
それだけは嫌だ。たくさんいる【つまらない男】の1人だけど、俺の唯一の特権は【家族】であること。それがあるから無条件でそばにいれる。それしかないけど、それだけでいい。
『ねぇねぇ、ジョースケくーん』
俺の気持ちと裏腹に、甘い声を出しながら俺の背中に引っ付いてきた。耳元で感じる吐息に、あれがすぐさま反応した。それを小さな手が掴む。ダセーことに、ゴクリと喉を鳴らしてしまった。
クスクスと茶化すように笑うコイツの声が頭に響く。久しぶりに嗅ぐコイツの甘い匂いが目を眩ませる。
ああ、もう本当に、全然満たされねえ。
『お姉さまとエッチなことするかもって想像したの〜?』
「した」
『あら、素直ね〜』
「しねーの?」
『彼氏居るからムリ〜』
テメーこの野郎!どこまで俺の純情を弄べば気が済むんだ!ってブチギレしそうになったけど、深い深〜いため息に変換。
「次は続くといいな」
素っ気なく返事したのが気に入らなかったらしく、俺からゲームのコントローラーを取り上げて、満面の笑みで目の前にしゃがんだ。こーいう笑顔の時は、ろくでもねえことしか考えてない。
『1人でシテみて』
ほらな。
「ぜってーイヤだ」
『どうせ溜まってるでしょ?お姉さまが見ててあげる』
「お前がやるわけじゃねーならイヤ」
『お前?今、お姉さまに向かってお前って言った?』
「……おねーさまとヤれないのならしたくアリマセン」
『ええ、そうなの?困ったなぁ』
何がどう困ってるんだって言いたくなるほど、わざとらしく悩む素振りをした。ソファーに戻り、置いてあったケータイを開いたと思えば、何かを操作している。俺がその様子を黙って見てると、ニヤリと不敵に微笑んで、片足を俺に差し出した。
『お姉さまといやらしいことしたいんでしょ?足、早く舐めなさい』
信じられねえこのくそ女!テメーマジで犯してやろうか!って叫びたいと訴える口がピクピク痙攣した。そんなブチギレ寸前の俺を見て、いつものように、小バカにした態度でクスクスと笑っている。
負けねえ!今回ばかりは絶対に負けてやらねえ!毎度毎度自分の都合良く上手くいくと思うな、この尻軽女!
「ええそりゃもう舐め回してーけど、彼氏居るからムリなんスよね〜、浮気はダメっスよ〜」
『浮気じゃなければいいの〜?』
「そりゃそうっスよ〜、俺だってお姉さまといやらしいことしてーんだも〜ん」
わざとらしい演技を披露してたけど、ポイとケータイを渡された。画面を見ると、今の彼氏宛であろうメールが開かれていた。書いてた文字は【つまんないから別れる。さようなら】、それだけ。
つまりコイツは、俺といやらしいことをするために彼氏と別れた。俺の為に彼氏と別れた。彼氏よりも俺を優先した。
俺、1番だっ!!
ぶわっと溢れてくるものがあったけど、それが暴走する前に、コイツの足が俺の顔を前に伸びてきた。
『約束よ。舐めなさい』
もはや戦意喪失している俺は大人しく座り直して、不敵に微笑むコイツの足に手を添えた。ほんと、敵わねえ。また負けた。
『今度はイイコね〜』
「うっす」
俺の為に別れてくれたってだけで、足を舐める行為の一つや二つ、別にどうってことない。舐め尽くしてもお釣りがくる。
今の想いの勢いに乗って、アホみてーにキスして舐めてを繰り返してたら、ケータイが鳴った。こーいうことしてんのに当然のようにケータイを耳に当てた。
『もしもーし。……えー、いいよ、そーいうのめんどくさーい』
微かに聞こえてくる男の焦った声で、ついさっきまで彼氏だった野郎って分かった。何かこう、もやーーっとした。
『ちょっと、何してんのこの変態!……ああ、違う、こっちの話。飼ってる犬が暴走してんの、ッッ』
電話のせいで上手く拒否れない状況をいいことに、コイツのズボンと下着を剥ぎ取った。四つん這いにして、まだ何もしてねーのに濡れてるソコに自分のを入れて、好きだっていう奥を目掛けて突いた。
『……だからっ、違うっ、ちょっ、やだ、んん!』
イヤなら電話切りゃいいのに、繋いだまま俺のを締め付ける一方。電話の元彼ともヤったんだろうか。もしそうだとしても選ばれたのは俺。今は俺がコイツの1番。
『ダメっ』
アソコと裏腹、否定するいつもの言葉がやけに鼻について、腰を持ってる手に思わず力が入った。一呼吸置いて、ビクビクっとナカが痙攣した。
今回はあっという間だった。この状況と痛みのせい?もしかしてMっ気でもあるんじゃね?って思ったけど、普段の言動があれだし、違うと思う。誰がどう見ても女王様体質だ。
「はぁ、イキそ」
ビクンと痙攣するソコに合わせてイキそうになる。まだ楽しみたくて腹に力を入れて耐えたけど、何せ久しぶりの行為だ。我慢出来ねえって叫ぶ煩悩に任せて、思い切り奥に吐き出した。
『……ッッ!!もう、切るね!さようなら!!』
余韻に浸ってボーッとしてる頭に入ってくる怒声に気づいても、もう遅い。四つん這いのまま睨んでるコイツに、今さら冷や汗が流れた。
『よくもまぁ勝手なことを』
「ご、ごめん!」
『サイテー!信じらんない!この変態!』
恨めしく叫ぶコイツに何も言い返せなくて黙ってたら、あれを抜いてソファーに寝転んだ。アソコに目いくのは思春期特有だからだと思いたい。白い垂れた液がエロいと思うとかマジで変態野郎だ。
『んもう、私の許可なくナカに出さないでよ。安全日だからよかったけど』
「マジですんません」
『次はないからね』
「うっす」
安全日とかの計算なんて知らねーけど、安全日なんてあるようでないって保健でベンキョーした。俺はコイツに子供が出来ても構わない。むしろ俺のもんになる……
「うわああ」
人としてサイテーな考えに辿り着きそうになって、思わず頭を抱えてしまった。だから、そーいうところが【つまらない男】なんだ。くそっ、認めるしかない。もはや俺の純愛は腐っちまった。
誰でもない、コイツのせいで。
『ねぇ、せっかくの安全日だから、続きしちゃう〜?するよね〜?したいって言えよ〜』
俺の腐った純愛問題なんて何のその、足を伸ばして俺のあれに触れた。マジで腐ってやがるぜ、俺の純愛。
『やっだー、おねーさまの足で触られておっきくなってるの〜?変態さんね〜』
「うるせー。お姉さまも誰にでも中出しされて喜んでる変態じゃねーか」
『私ね、色々な男と寝るけど避妊はしてるの。生で中出しは昔の人と、ジョースケだけよ〜』
「えっ、俺だけ?」
『うん、ジョースケだけ』
「うっす、あざっす」
『勃起しながら照れてるの〜?相変わらずジョースケかわいいね〜』
「かわいい言うな!」
俺は一生コイツに敵う気がしねーし、コイツになら負けても構わないと思った。
だって、生の中出しを許してくれるってことは、そーいうことだろ?
だったら大丈夫。本人が気づいてないだけで、また他に男が出来ても、フラッと戻ってくる。
これ以上を俺が欲しがらなければ、必ず俺のところに戻ってくる。
コイツがそこに気づくまで、それまでは、忍耐力が試される長期戦。腐ってもこれが俺の純愛なんだ、受けて立ってやる。
『お姉さまが欲しいんでしょ?おねだりは〜?』
「……覚えてろ、いつかぜってー鳴かしまくってヒィヒィ言わしてやる」
『えっ、何?』
「おねーさまのナカにぶちこみたくて我慢出来ねーッス」
『うんうん、おりこーさんだね〜』
だから俺は、この不毛な恋を続けようと思う。