御狐様の日記帳

□6話
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朝っぱらからエロいことして、激レアな胸も見れて、揉めて、夜のセックスも予約出来るとかサイコー過ぎる1日の始まりだとテンション上げてたけど、急降下。

学校のセンパイに絡まれるし、一度も会ったことない父親の孫って野郎が会いに来るし。俺の甥にあたる人らしいが、遺産相続とかマジでどうでもいい。勝手にやってくれ。俺は今夜のことで忙しいんだ。

挨拶もそこそこに適当に終わらせたいんだけど、まだ話があるようで学校へ向かいながら聞くことにした。

その出発寸前でコンが財布を持ってきた。

甥に当たる人、空条承太郎というのだが、この人が声を掛けた瞬間、コンの顔色が真っ青になった。ガタガタ震えて、心なしか涙目。そして何よりも尻尾がお腹に張り付いている。

これはただ事じゃない。それは理解出来るけど、空条承太郎さんとの繋がりがサッパリ分からない。


『何であんたがここにいるのよ!死ね!マジで死ね!100回死んで地獄に落ちろ!』


とりあえずコイツが承太郎さんを嫌ってることは理解した。でも何故?


「おいおい、10年振りに会ったご主人様に何て口の聞き方をしやがる」


昔のことはよく知らない。酷い環境で育ったとお袋に聞かされてたけど、今がよければそれでいいってスタンスだから、特に興味なかった。それを後悔した瞬間だった。

ご主人様ってなんだ。一体何の話をしてやがる。湧き出てくる一方の疑問は解決されないまま、2人の会話は進んでいく。


『誰がご主人様ですって!?いつの話をしてるのよ!』

「10年前」

『真面目に答えてんじゃないわよ!早く死になさいよ!』

「相変わらずうるせーキツネだな。少しくらい成長しろよ」

『ぐぬぬぅ!』


もはや言葉に出来ないくらいブチギレしている。ここまでキレてんのは、誕生日にブランド物のバックねだったら偽物だったっていう事件以来だ。


『つーか何でここにいるの』

「仕事と私用。ついでにキツネの捕獲」

『キツネの捕獲?それいるの北海道じゃないの?来るところ間違えてるわよ。プークスクスこの恥さらし』


承太郎さんを小バカにして笑うコンに誰しも哀れみの目を向けた。家族である俺ですら、お前もキツネだぞって言えなかった。ごめん。


「あー……お前、自分がキツネってことを忘れたのか?」

『えっ、私?私はキツネのハーフアニマルよ。キツネじゃないわ』

「いやおめーはキツネだろ。何で人間様に染まってんだよ、このアホキツネ」

『違うもん!私はキツネで人間だもん!どちらかと言えば人間寄りだもん!』

「へーそう」

『ちゃんと聞きなさいよ、この変態鬼畜野郎!』

「ハイハイ」

『ぐぬぬぅ!!ジョータローなんて大嫌い!!』


大嫌いだと言う割りに仲良しに見えるのは俺だけだろうか。そう言えば前に殺したいほど大嫌いな人がいるって言ってたけど、もしや承太郎さんのこと?ああっ、もう、分からないことだらけだ。


「とにかくお前は捕獲」


承太郎さんはコートから手錠を取り出してコンの右手首に付けた。もう1つを自分の左手首に付けたあと、改めて俺と向き合った。


「コイツが世話になってたんだろ。長いこと世話してもらって悪いな。コイツの説明も含めて話したいのだが」

「とりあえず簡単でもいいから今ここで説明して下さいッス。大事な女を目の前で捕まえられて、はいそーですかって納得出来ないッスよ」

「……ふむ」


俺の言葉に何を疑うものがあるのか知らないけど、何かを考えたあと、コンの頭を鷲掴みにした。それはもうボールを掴むみたいに。しかも無表情で、キツネを思い切り睨み付けながら。


「おい」

『んっん〜』

「とぼけてんじゃあねーぞ、このクソアマァ」

『何のこと〜?』

「よりによって中学生、いや、高校生のガキにまで手を出しやがって。完璧犯罪だぜ。捕まってもおかしくねーってこと分かってんのか、ああ?」

『別にやましいことしてないもん!真面目に不真面目な感じで遊んでただけだもん!』

「限度があるっつってんだ。ガキじゃねーんだから弄ばれた野郎の気持ちもちったぁ考えろ!!」

『うわあああん!怒ったあああ!!』


うわああと泣いてるコンをそのままに、承太郎さんはまた俺に頭を下げた。それにカチンときた。


「うちのバカキツネがすまない」


うちのキツネとおっしゃるが10年前からうちのキツネです。弄ばれたとおっしゃるがそれは合意の上です。ポッと出のあんたに説教する権利もコイツ泣かす権利もありません。つーか火遊び認定してんじゃねーぞこの野郎。

喉まで出かかった言葉をゴクリと飲み込んで、頭を下げたままの承太郎さんを知らん顔して、コンの前にしゃがんだ。


『ジョースケっ』

「怖かったな」


ハンカチを取り出して涙を拭いた。酷い環境で育ったのが原因らしく、怒られたりすると子供のように泣いてしまう。だから怒るときは優しくがうちの基本だ。

それすらも知らないくせにこの野郎。でも我慢。よく分からない時に動いてもドツボにハマるだけ。今はまだ忍耐の時。


「なんかよく分かんないッスけど、今夜はうちに帰して下さい。お袋もじいちゃんも心配するし」

『……ジョースケ』

「あと、何があっても、例え生意気でも酷いことしねーで下さいよ。うちの大切な家族なんスよ。傷ついて泣く姿は絶対に見たくねーし。それだけは約束して下さい」

「ああ、分かった」


疑いたくなるほど返事が軽い。現に扱いも分からず泣かせたばかりだ。でもこの話をこれ以上掘り下げても意味がない。

はぁっとため息を吐いて立ち上がった。このペースで始業式の時間間に合うのかよって心配したのもつかの間、手錠をされてたコンが俺の隣に立っていた。しかもドヤ顔で。


『こんなもので私を捕らえようとするなんて甘いわ!あんたの方がお似合いよ、この変態鬼畜野郎!この私に跪きなさい!そうすればすべて許してあげるわ!』


バシッと指差した先には、両手首を手錠で繋がれた承太郎さんがいた。深く被った帽子のせいで表情は伺えないが、これはヤバイと、すぐにキツネの頭に手を添えて頭を下げさせた。


「うちのキツネがほんとーーに申し訳ありません!ちょっと無鉄砲なところがありますが、悪意があるわけじゃねーんす!」

『ちょっと何でジョースケがあいつに謝ってんの!?』

「うるせえ!お前も謝れ!」

『嫌よ、嫌!私は絶対に謝らないの!謝るのは向こうなの!ってかお姉さまに向かって何て口の聞き方してんのよ!あんた私の犬でしょ!?あんたがやっつけなさいよ!』

「ひええっ、ムリ!マジでムリ!返り討ちに遭うに決まってんじゃん!見ろよ、あれだぞ!?人間の1人くらい捻り潰してそうじゃねーかよ!」

『あいつ人間捻り潰すどころか骨すら残さないわよ。私はそれを見てきたの。でも大丈夫、ジョースケならやれるわ。お姉さまはあんたを信じてる』

「ひええっ」


コイツは俺の後ろに隠れてぐいぐい背中を押してくる。勘弁してくれって首を横に振ってたら、金属音が聞こえた。音の鳴る方へ視線を向ければ、手錠をぶっ壊して解放された承太郎さんがいた。ひええっとコンと共鳴した。


「そこのキツネのせいで話が進まない。お前のキツネだろ。少し黙らせろよ」


間違いなくキレてる承太郎さんの要求に精一杯頷いて、キツネの口を塞いだ。めっちゃ嫌がって暴れて噛んでくるけど、ありったけの力を込めて押さえ込んだ。


「簡単に説明する。そいつは俺が捕まえた悪党の1人だ。10年前に逃げられた。ずっと探していたが、ようやく見つけた。大切な家族を監獄行きにしたくねーなら、こっちの指示に従ってもらう。以上」


簡単に説明されても意味分かんねーし、疑問だらけの説明にはいそーですかって言えるわけもなく。かといって何をどう聞けばいいのかも分からずにいると、承太郎さんがコンに言った。


「もうガキじゃねーんだから自分のやってきたことが分かるだろ。お前もコイツを大切な家族と思うのなら、これ以上迷惑をかけるな。分かったか」


コンは暴れるのをやめて小さく頷いた。どうしていいか分からない俺の手を退かして、トボトボと承太郎さんの元へ。承太郎さんはお利口だと言わんばかりに頭を撫でて一枚の紙を渡した。


「ここで待ってろろ」

『うん』

「逃げたらどうなるか分かってるよな」

『うん』

「イイコだ」

『うるせーくそが』

「あ?」

『お利口に待ってるね!ジョースケ、また夜に話そうね!』


何てことないいつもの顔で手を振ってこの場から去って行った。何が何だかサッパリだけど、夜まで待つしかない。大丈夫、待つのは慣れている。

早く夜になんねーかなって思いながら過ごし、家に帰ってあいつを待ってれば、夜の10時過ぎに帰ってきた。遅くに帰ってくるのは日常茶飯事。仕事が夜だから明け方に帰ってくる日もあるし、下手すりゃ次の日ってこともあった。

でも今日は、遅く帰ってきたことに対してイライラした。

あの野郎とずっと何してたとか、心配してたんだぞとか、色々聞きたいことあるのに軽すぎだろとか、珍しくぶわって出てくるイラ立ちをそのままに、あいつが部屋に来るのを待った。


『お待たせ〜、お姉さまのご帰宅だよ〜』


コイツを見て戦意喪失した。考えていたことが全部ぶっ飛んだ。でも責めることも出来ない俺は、知らん顔していつもの調子で言葉を返した。


「早く説明しろよなぁ〜、でも承太郎さんに聞いた方が早いかも〜、お姉さまって説明下手だからよぉ〜、理解すんのも大変かもなぁ〜」

『あらあら、どうしたの〜?今日のジョースケは少し嫌味っぽいね〜、朝からお預け食らって拗ねてるのかなぁ〜?』

「やってくれんの〜?」

『やるつもりで買ってきたんだけど〜』


コイツは持っていたビニール袋をベッドに投げた。中から一箱ゴムが出てきた。それを開封しながらベッドに腰掛けてた俺に股がる。俺は全てを知らん顔しながら、コイツの命令あるまでじっと待つ。

何てことない、いつもの日常だ。

コイツに弄ばれるのも、コイツが主導権握ってんのも、コイツが大切なこと何も言ってくれねーことも、全部日常。今さら。そう、今さらなんだ。


「何も話してくれねーの?」

『ん〜、私は悪い大人、それだけ。ジョースケは何も知らなくていいの。関係ないし〜』


俺がそれに触れるのも、過去に触れるのも、全部ダメってこと。それをしたら逃げられる。

大丈夫、待つのは慣れている。今回もいつもみてーに、すぐに戻ってくる。何でもない顔で迎えればいい。そうすればコイツを失うこともない。

でもーー


「(あーくそ、全然イケねえ)」


コイツに付けられてる首輪のせいか、初めて付けたゴムの壁すら感じる質感のせいか、今日のセックスは全然気持ち良くなかった。
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