御狐様の日記帳
□10話(後編)
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ジョータローは、なかなか噛んでくれなかった。
「どこを噛もうか、悩むぜ。足首、ふくらはぎ、膝、……膝裏もいいかもな」
言葉に合わせて、わざとらしく指先を身体に這わせてくるだけ。足首からゆっくりと這い上がってくる感覚に、たまにピクッと身体が揺れた。
「太ももは……外側か内側……」
『んぅ』
「内側だな。……内側の……」
『ッ』
「付け根か。……相変わらず、ここも弱いのかよ」
『うるさいッ、早くしてよ!』
噛むだけなのに何だってこんなにしつっこいの!?って文句言ってやりそうだったけど、「終わっていいのか?」って言われて冷静になった。
10時まであと13分もある。今ここで終わられたら、2秒の隙を作れなくなってしまう。それは絶対にダメ。復讐の為に我慢だ、我慢。あと13分、耐え抜いてみせる。
『……まだ、するの』
「無理はするな」
『大丈夫、……久しぶりで、……少し戸惑ってただけかも』
「戸惑うねぇ、……お前は、どこを噛まれてーんだよ」
『んッ』
ジョータローの指先が首に触れた。ツツツと皮膚の上を滑る感覚に、あり得ないほどゾクゾクした。くすぐったいけどキモチイイ。あのときの感覚がまた甦る。
10年前、色々なことを教えられた。拘束された時の痛みと苦しみ、自分の身体なのに動けなかった。今みたいに、背中に回されて固定された腕を、伸ばしたいのに伸ばせない。小さくて地味なシルバーの拘束具に自由を奪われてる。ーーこんなモノで縛られてる。
ああ、そのときの快楽も一緒に、あれもこれも思い出してしまう。指先から感じる刺激のせいだ。力は地味なくせに、神経を犯していく。犯された神経が繋ぎ合って、下へ下へと向かっていく。そして子宮に辿り着いて、あのときみたいに、ナカから私を犯していく。
「首か、それとも……」
ジョータローの指が、首から移動して、昔より膨らんだ胸の真ん中に指を這わせてきたから、『やだ』って言っても止まらなかった。仰向けになってるせいで横に流れた胸の膨らみを、グニッと押してきた。
「噛んでほしい場所を言え」
『ッ』
「言わねーと、俺が決めるぜ」
それだけは絶対に嫌で首を横に振った。噛んでほしい所なんて無いけど、パッと思い付いたのは首だった。
『くび』
「ほんと好きだな」
『痛くないようにしてね』
「ドMのくせに」
『やだよ、久しぶりで……怖い』
それは本当の気持ちだ。噛まれることを選んだけど、今さら怖い。どのくらいの痛みだったのか思い出しても、キモチイイって感覚しか無くて。噛まれてキモチイイはずないのに。
「少し、慣らすか」
『慣らす?』
「悪いが、舐めるぜ」
ジョータローが跨がってきた。顔の横に肘をついて、首を舐めてきた。これはプレイ内容に違反してる。そんなの分かってるけど、さっきの指よりも深いゾクゾクが身体に走ってるせいで、声が出ない。絶対に……出したくない。
『ッッ』
生温い舌がねっとりと皮膚を舐める。さっきよりも深く、神経に染み込んでいく。まるで媚薬みたいなゾクゾクは、身体中を走り回ってる。すごい、なにこれ。首を舐められてるだけで、アソコがジンジンしてきてる。
こんなのでここまでならなかった。全然足りなくて、自分でも出来ないから色んな男とやって、でも足りなくてずっと満たされなくて。でも今は、足りないって思ってるところにハマっていく。地味だけど、確実に、キモチイイ感覚を高めてる。
ーー早く、噛まれたい。
『ンッ』
「もう、いいか?」
チラリと時計を見ると、5分前だった。まだ、ダメ。あともう少し。
『やだ』
「やれやれ」
『あッ』
首の皮膚を唇で挟まれた。そっと啄む程度なのに、身体が大袈裟に揺れた。待ちわびてる。あのときの痛みを、深く刺さる快楽を。
『ッ』
腕を自由に動かせないことが歯痒い。でもそれで良かったと思う。動かせたらすぐにジョータローを抱きしめてた。噛んでってお願いしてた。復讐そっちのけで確実に流されてた。
「……んッ、……ビクビク震えてんぞ、大丈夫かよ」
笑いを含む吐息交じりの声が脳に響く。それすらもナカに染み込んでくるから、耳の近くで喋らないでほしい。言葉まで与えないでほしい。流されそうになる身にもなってほしい。何でこの人は、キモチイイことしかしてこないんだ。何でこんなにキモチイイの。
『……べつに、……平気』
「その割に、息が荒すぎねーか?興奮して少し熱っぽいぜ」
『違う、そんなことない』
「そんなことない、か。……本当に忘れてんだな、自分がドMだってことを」
『ちょっと!?』
ジョータローはカプリと軽く噛み付いてきた。甘噛み程度の痛みが何度も何度も鈍く刺さる。そしてお腹にアレを押し当ててきた。固くて大きくなってる。それを身近に感じてゾワゾワしたモノが子宮で疼いた。
アレを入れられて噛まれたらーー想像しなきゃいいのにしてしまう。想像だけで、一人で勝手にキモチイイ感覚を深めていく。
『……ぁ、……ジョータロー……』
「ああ、それでいい」
首だけの刺激じゃ足りたくて、足やら腰を動かしてアソコをモゾモゾさせた。布が擦れるだけで、キモチイイ感覚が上乗せされる。イキたくてしょうがないって子宮が叫んでる。
恥ずかしいことしてるって自覚はある。でもジョータローは、こんなことで引いたりしない。受け入れてくれてる。だから安心して、足や腰を動かした。
本当に気持ち良かった。キモチイイから、止められなかった。無我夢中だった。イクこと以外、どうでもよくなりそうだった。
チラリと時計を見ると、決行の1分前。もうそろそろだ。
『……噛んで』
ジョータローにお願いした。皮膚に歯を当てられたのが分かった。それだけでも堪らずに自分の手をぎゅっと握り締めた。
ゆっくりと痛みが食い込んでいく。身体の奥深くに刺さっていく。ビリビリとした痛みがアソコをジンジンさせて、それを上乗せするかのように、一人で腰を動かしてアソコをモゾモゾさせて。
もうダメだった。流されずにいられないほど、キモチイイ感覚に飲み込まれてた。イクこと以外、何も考えれなかった。
だから、
「死ね、空条承太郎!」
って声が聞こえて、ようやく本作戦を思い出した。でも、ハッと意識を取り戻しても遅かった。
「やれやれ、無粋なやつだな」
ジョータローは首に噛み付いたままスタンドを出して、でも次の瞬間、黄色の変なスタンドの頭を鷲掴みにして、「オラァ!」と気合いを入れて殴ろうとしてた。黄色の変なスタンドはギリギリでそれを回避。予想外の出来事だったらしく、慌てて逃げ出した。
とんでもない捨て台詞を吐いて。
「何でちゃんと引き付けてねーんだよ!テメーのせいで失敗したじゃあねーか!」
一瞬の出来事に頭が真っ白になった。だって今の、私があいつの仲間みたいな言い方だった。仲間なんかじゃないのに。あいつが勝手に仲間意識を持っただけなのに。今度会ったらそこんとこ説教してやろう。
「ほーう、良からぬことを企んでたってわけか。懲りねーな、お前も」
ビクンと身体が震えた。めっちゃ疑われてるけど、大丈夫。【脅されてた】言い訳がある。死ぬことはない。
『やだな〜、私がご主人様を暗殺しようとするわけないじゃな〜い、あいつに脅されてたの、怖かった〜』
「敵に協力するふりして、俺に全てを話しとけばお仕置せずに済んだのだが」
『へ?』
「この俺がテメーの監視を怠るとでも思ったのか?盗聴器くらい仕掛けてるぜ。そこんとこに気づかねーとは、お前も敵もマヌケだな」
めんどくさそうに言うと、何故かパジャマのズボンの中に手を突っ込んできた。そしてイマイチ状況を読み込めてない私に、分かりやすく状況を教えてくれた。
「全部知ってたぜ。どうするのか、泳がせてた。まっ、せっかくだ。俺を裏切った罰を受けてもらう」
『や、やだ!どこさわってんの!?さわんないでよ、この変態!』
鬼畜変態野郎に変態って言ったって今さらだけど、ジョータローは下着の上からクリトリスにふれてきた。でも、それだけ。動かさずにふれてるだけ。それでも逸れてた意識が一気に引き戻された。
「お前の好きなお仕置タイムだぜ」
『すきじゃない!』
「腰、動いてるぞ」
『ッッ』
さっきまでイク寸前だった身体は心よりも正直だ。途中で中断したってのに、また腰を動かしてアソコをジンジンさせてる。また一から高めていく。
今度こそダメだった。さっきよりもガンとくるクリトリスの刺激が、たまんなく気持ち良くて。それを堪能する私を、じっと見つめる視線と交わった。
『……あ、……ッ、……ぁ』
あのときと同じ、私の【全て】をみられたと思った。心の奥底に閉まってある汚いモノも、何もかも見透かされてる。この人に嘘は通用しない。そう思わずにいられなかった。
『……ジョータロー、……どうしよう、……キモチイイの、とまんない、……イキそうなの』
ジョータローからの返事はなかった。でも大きく口を開けて、首にガブリと噛み付いてきた。さっきと全然違う。顔をしかめてしまうほどの鋭い痛みが全身に走った。
でも同時にクリトリスをグニィと押し潰された。お互いの感覚が神経を走って子宮に届く。我慢してみた、でも、流された。キモチイイ波に飲み込まれた。
『んッ、ぁ、あああ!』
こんなにも深く飲まれたのは、あのとき以来。誰とシテもこうならなかった。もっと全然軽かった。でもこれは……
「痛みでイキやがって。やっぱりお前はドMだな」
首から顔を離したジョータローは、今度はじっと見つめて、イッたばかりのだらしなく緩んでる私の頬にふれてきた。
ああ、そうだ。私も【全て】をみられたように、私もジョータローの【全て】をみてる。だけど、……気づかないふりをしよう。
「あのときと何も変わってねえ。……キレイだ、……とても」
じゃないと本当に流されそうだ。