御狐様の日記帳
□13話
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完璧落ちた。
ジョースケが好きだっていう自覚はあったけど、復讐の為に諦めてた。復讐するまではって思ってたのに、こうもあっさり落ちるとは我ながら情けない話だ。
でも、あの時、素直になってよかったと思う。初めて打ち明けた。聞いてくれたことが嬉しかった。俺を選べなんて無責任なことを言わず、待ってるって言ってくれた。
寄り添えたと思った。これからも寄り添いたいって、ジョースケ以外もういらないって、心の底から思えた。
あとは、ずっと逃げてた問題に、私なりにケジメをつけるだけ。
『ジョータロー、話があるの。ちょっと飲みに行かない?』
「今からか?」
『うん』
帰ってきたジョータローに声を掛けた。1人じゃ怖いからってジョースケを誘ったけど、頑張れって応援の言葉だけを残して帰ってしまった。
この世の恐怖を詰め込んだジョータローとタイマンとか……考えるだけで、膝がガクガク震えた。だったらお酒の力を借りて話そうと思い誘った。
時間も時間だし、街まで移動するのも面倒ってことで、ホテルの最上階にあるバーに行くことに。
「何だよ」
『あの』
くそ偉そうにカウンター席に腰掛けて、これまたくそ偉そうに話を促すジョータローに拳を握り締めた。すぅはぁ〜と深呼吸をし、意を決して口を開いた。
「セックスしてーなら床に座ってお願いしろ」
『何でそうなんのよ!!』
思ってもない言葉にツッコミした。
「ここ最近の行動含めて、あまりにも思い詰めてるからいよいよ溜まってんのかと。違うのか?」
『違うわよ!ふざけないでよ!あんたに欲情するわけないじゃない!』
「噛まれてイッたくせによく言うぜ」
『きいいいいっ!!』
「喚きたいだけならあとにしてくれ。疲れてんだよ」
ジョータローがぼやくなんて珍しい。チラッと様子を伺うと、確かに顔色が悪い。疲れてるのか目の下にくまも出来てる。ほんの少しかわいそうになって、ポケットからキャンディーを取り出した。
『あげる。疲れてる時は甘いものだよ。これならお酒にも合うでしょ』
「いるかよ、アホくせー」
『ほら、あーんしてあげるから』
キャンディーの袋を破って口に持っていくと不服ながらも口を開けてくれた。
『美味しい?』
「酒が不味くなる味」
『あのね、そーいう時は、うそでも美味しいって言うもんなのよ』
「ウマイ」
『棒読みが気になるけど、妥協点ね』
「何様だよ」
『キツネ様よ』
「あっそ。あー、甘くて不味い」
不味いならキャンディーを飲み込むなりすればいいのに、イチイチなことを言わないと気がすまない病にでもかかってるんじゃないのだろうか。
色々と文句言ってやりたいけど言っても面倒だから、全ての文句を小さなため息に変えて吐き出した。そのあとに、注文していた日本酒の入ったお猪口を手に持ち、ぐいっと飲み干す。
『くぅぅ!これよ、これ!やっぱり溜まったストレスに利くのは酒だわ!ああん、喉ごしがくっとくるぅ〜』
「うわ……」
『あんたが引いてんじゃないわよ!』
「やれやれ、もっと淑やかに飲めねーのか」
『あら知らないの〜?お酒は楽しく盛大に飲むものなのよ〜』
「あっそ」
チラッとジョータローを伺う。黙々とお酒を嗜む姿にドキッとした。元々タイプだったし、あの時DIO様が居なかったら間違いなく惚れてた男だ。
でも、それはまた別の話。きちんと話さないと、前へ進めない。
『……ねえ、……DIO様は、もう居ないんでしょ?』
お猪口を持つ手が震えてた。突き付けられる真実が怖くて、逃げたかった。
「ああ、俺が殺した」
かああっと体が熱くなる。それを感じながら持っていたお猪口をジョータローに投げ付けた。
『ウソつき!友だちになったって言ったのにっ、ずっと信じて待ってたのにっ、何でいっつも!返してよ!私の時間も、思い出も!返しなさいよ!』
ジョータローを責めてもどうしようもなくて、でも言わないと気が済まなくて、ボロボロと涙も出た。
ジョータローは何も言わなかった。いつかそう言われるのを覚悟していたみたいだった。
あの時、ジョータローの仲間だった人がDIO様に殺されたって話をジョースケから聞いている。ジョータローの、いや、ジョースター家の身の回りにあったこと、全部教えてもらった。
DIO様が悪いことをしているって自覚もあって、どんだけの人を殺して苦しめたのかも知っている。殺されても当然だって思ってる。性癖はあれでもジョータローがイイ人だって知っている。だからこそ、キツイ。
『ううっ、うう……』
「大丈夫ですか?」
唸るように泣く私に、バーテンが声を掛けてきた。うっさいわねって言葉も出てこない。落ち着くために顔でも洗おうと立ち上がって、お手洗いへ行こうとしたら、バーテンがそばまで来てくれた。
「こちらです」と言いながら肩を抱いてきたのと同時に、後ろから温もりを感じ、凄い音が鳴り響いた。何がなんだか分からなかった。
「オラァ!」と言う恐ろしい声がすぐ近くで聞こえた。バーテンが遠くまでぶっ飛んで行った。お店の中がパニック状態で、なぜかジョータローが私を守るように抱きしめてる。
『えっ、なに、どうしたの?』
顔を上げてジョータローを見ると、冷や汗をかいてた。まるでついていけない状況なのに、肝心のジョータローがガクンと膝を着いた。
『えっ、なにっ、これ……』
白いコートに血が滲んでいた。余計パニックになりそうだけど、ジョータローの冷静な声で気を保つことが出来た。
「説明はあとだ。仗助を呼べ」
『あっ、そうね、仗助なら直せるね』
急いでカウンターの裏に回って、お店の電話を手に取った。ママが出たら話長くなりそうと不安に思ってたけど、仗助が出てくれた。
『ジョータローが死にそうなの!』
「えっ、マジで殺ったの?あのなぁ、復讐するのもいいけどよぉ、その死体を片付ける身にもなれよなぁ。どうすっかなぁ、三輪車と融合させるのもありだよなぁ〜」
『私じゃないの!違う男がジョータローを襲ったの!とにかく早く来て!』
「えー、直していいの〜?鬼畜な彼氏に酷いことされるかもよ〜?」
『いいから早く来なさい!!』
「ひええっ」
電話を切ったあと、ジョータローに駆け寄った。初めて見る瀕死の姿に少しザマーミロと思った。
『日頃の行いかしら』
そう呟いたあと、ジョータローにオラァ!ってされた男が立ち上がった。拳銃をこちらに向けたので、ジョータローを置いて逃げた。銃口が私の方に向けられた。
『狙われてんの、私!?』
「やれやれだぜ」
とりあえず盾は必要なので、ジョータローの所に戻り、ジョータローを壁にした。これで私の命は守られた。
『えっ、何で私狙ってんの!?知り合い!?』
「お、俺を覚えてないのか!」
どうやら知り合いらしいのでジョータローからひょっこり顔を出して確認。知らない人だった。
『誰?』
「俺だよ、2か月前にお前に捨てられた男だよ!」
『2か月前に……居たっけ?』
「このぉ、腐れキツネめ!!また俺をコケにしやがってええ!!」
『はっ、そのワードは……』
2か月前に付き合ってた男といえば、このキツネ様に暴言を吐いたアイツか。顔が変わってる所を見ると、ジョースケにやられたんだろう。可哀想に。それなりにイケメンだったのにブ男になっちゃって。
「知り合いか?」
『私のことを腐れキツネだのヤリマンビッチだの言ったやつ。ジョースケに顔面整形されたみたい。自業自得よ。キツネ様に酷いこと言ったんだもの』
「なるほど。ついでに言うが、お前の写真とお前を殺すという犯行予告がネットに晒されていた。犯人は間違いなくアイツだな」
『……マジ?』
「そのおかげでお前を見つけることが出来た」
『逆恨みが超怖いのでヤリマンビッチ卒業しようと思います』
「そうしろ」
自分の行動でこんなことになるとは思ってもなかった。殺されても文句言えない。それにジョータローが居なかったら間違いなく殺されてた。
そう言えば外出禁止の理由ってもしかしてこれ?犯罪予告を危惧してたから……多分、ううん、絶対そうだ。ジョータローはそーいう人だ。根本は優しいのだ。鬼畜で変態だけど。でも、不器用な人。
『ありがとう』
「別に」
『ごめんね』
「別に」
『キツネ大好きだもんね』
「うるせー」
ジョータローはすぐそばに落ちていたお猪口を拾った。それを犯人に投げた。お猪口は犯人の額に当たり、その衝撃で犯人は意識を飛ばした。
店内は大パニックで、ホテルの外からパトカーのサイレンも聞こえてきた。しばらく解放されそうにないと思いながら、倒れたジョータローに近づいた。
「ひざまくらしろよ、くそキツネ」
『はいはい』
その場に座ってジョータローの頭を太ももに乗せた。血で濡れた手が頬を撫でた。もう嫌じゃなかった。私もジョータローの頬を撫でた。
「後悔してねーぜ」
『そうだね、お互い守りたいものがあったよね』
「守れなかったな」
『変態鬼畜で不器用だから、守り方ってやつが分からなかったのよ。若気の至りってやつかしら』
「すまなかった」
返事はしなかった。許す許さない、その2つの選択肢なら許さないの一択だ。でも、そうじゃない。一生許せない。
それでもーー
『あのとき顔にぶっかけたこと許してね』
「それは一生許さねえ」
ほんの少し、前に進めた気がした。