キミの知らないウソ

□3話
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アキを救ったのはオレじゃない。あの時、アキにキスをしたのはブチャラティで、オレはその少し後ろに立って見ていただけ。

『ミスタの服の色で分かったの』とか言ってたけど、視界の端にオレが写ってた。それだけ。オレは何もしてないし何も救ってもいない。

どこで情報を手に入れたのか、後日、コイツはひょっこりとオレの前に現れて、『あの時はありがとう』とか『好きだ』とか言ってきた。

「それしたのブチャラティ」って言えばよかったんだけど、突然のことに、「お、おおう」としか言えなくて。次こそは真実を伝えねば!と思いながらもズルズルとここまで来てしまった。

そりゃオレだってあんなに『好き』ってアピールされたらその気になっちまうし、気になりだしたらずっと気になって、寝る前に思い出したり、何かと目で追って考察したり。何かもう気づいたらアキのこと好きになってるし。アキのことばっかり考えてるし。アキのこと好きすぎて離したくないし。

もし本当の事を伝えたら、オレから離れてブチャラティに心変わりして二人は両想いそして騙してたオレをキライになるって、そう思ったらやっぱり本当のことは言えねえ。情けないけど。

そんな情けないオレにいち早く気づいたのはブチャラティで、恋に悩めるオレにありがたい助言をくれた。


「余計なことは言わなくていい。お前が守ってやれ」

「オレがもらっちゃっていいの〜?アイツのこと好きなんだろ〜?」

「だからこそ幸せになってほしいと心から願ってる。これでいいんだ、これで」


これまたカッコイイこと言ってくれちゃって。おかげで自分の情けなさが更に浮き彫りになった。その日の夜は荒れたね。酒飲みまくって男泣きよ。いやマジで。

これで本当の事を言わずにアキと引っ付けば何か男として負けた気がする。かといってブチャラティみてーに、「幸せならそれでいい」ってスタンスでいることも出来ねぇ。どっちつかずのオレが取ってる行動は、結果的にアイツを傷つけることになってるっつーのに。

距離をとろうとすれば空気を読んで引き下がる、今なら大丈夫ですよ〜って空気を出せば笑顔で引っ付いてくる、オレが触れるだけで顔を真っ赤にさせて、オレが酷いことを言えば泣きそうになっちゃって。

オレがとる行動一つでコロコロと変化するアキが可愛くて可愛くてもっとイジメたくなるワケよ。いや、もちろん好きですよ。ガッツリとオレのハートってやつを掴んでますからね、アイツは。


「まるで小学生ですね。好きな女の子をいじめる小学生のガキ大将です」

「ってことはさぁ、ミスタってアキのこと溺愛してんだね〜。いじめてもいじめ足りないって、愛しても愛しても愛し足りないってことだろ〜〜」

「違いますよ、ナランチャ。そういうのは愛と呼びません。それこそブチャラティのような行動、これこそが愛と呼べるものです」

「そうかなぁ、愛なんて欲望の塊だろ?ドロッドロしてるミスタの方が分かりやすいっていうか、愛を感じるけどね。ブチャラティの愛はキレイ過ぎてオレにはよく分かんない」

「愛の定義を語ったところで答えは出ないでしょうね。でも、ミスタの愛は野蛮ですよ。己の欲求だけをぶつけて相手を傷つけてるだけ。相手の愛情を試して受け入れられることに安堵してる、本当に情けない男です」

「ああ、なるほど!総じてクソ野郎ってことか!」

「そうです、ナランチャ!正解です!よく出来ましたね!総じてクソ野郎、こんな言葉が出てくるなんて素晴らしい!」

「えっへへ〜、オレって恋愛の天才〜」


オレが目の前に居るっつーのにオレ談義している二人の言ってることは、大正解。正しくその通り。総じてクソ野郎。オレの代名詞にしよう。チクショウ。

反論出来ない二人の言葉に半泣きになってると、今まで黙って聞いてたブチャラティが、「あんまりからかってやるな」と二人を制した。本当にチクショウだぜ!


「本気で恋をすると誰しも臆病になるものだ。ミスタやオレだって例外じゃない。オレも自分の情けなさに腹が立つよ」


まるで他人事のようにそう言って、爽やか〜〜なご様子で紅茶を飲んだブチャラティ様。当て付けか、チクショウ。


「例えば〜〜?」

「オレが本当の事を言えば全て終わるが、何も言わずに放置しているところ。放っておけばいいのにわざわざ気にかけてしまうところ。それを見たミスタの焦りっぷりが面白くてまたやってしまうところ」

「あーははは!!ライバルに遊ばれてるーー!!」


オレを指差して爆笑したナランチャは後で絶対に撃ち殺すとして、問題はブチャラティだぜ、この野郎!


「オレで遊ぶのやめてくんな〜い」

「文句があるならさっさと引っ付け。お前らのウダウダを見守るほどオレは大人じゃないんだぜ」

「ぐぬぅ」


やっぱりイチイチうざってーくらいカッコイイブチャラティに唸ることしか出来ずにいると、今度はアバッキオがオレの肩を叩いてきた。何なのこのチーム。オレの傷を抉ることしか出来ないの。


「この勝負、ミスタの負けだな。敗者は敗者らしく、変なプライドは捨ててアイツを幸せにしてやれ」

「うっせーよ!」


そもそも同じチームのやつらと恋バナとか意味分かんねぇ。しかもライバル含めての恋バナとか何なの。その時点でオレの立場がまるでないんだけど。つーか何でそんなにもオレ押しでくるの。どう考えてもブチャラティと引っ付いた方が幸せになるに決まってんじゃん。だから、オレは……


「やってらんねー、散歩してくる」

「逃げた〜〜」

「逃げましたね」

「逃げたな」


フーゴとナランチャ、アバッキオをスルーして席を立つと、今度はブチャラティがポツリと言った。


「アイツからは逃げるなよ」


だ〜か〜ら〜〜、何でそんなにもイチイチカッコイイわけ!?何かそんなスキルでも持ってんの!?お前がそんなんだからオレの自信が無くなるんだけど!引っ付いてほしいならオレに花持たせてくんない!?

っていう、これまた情けない想いが喉まで出かかったけど、『おはよう!』っていうアイツの声が聞こえて、ゴクリと飲み込んだ。


『あれ?ミスタどっか行くの?』


散歩に行くっつって席を立ったままのオレに声をかけてきた。コイツが来たんなら散歩やめようと腰を落とす前に、フーゴ、ナランチャ、アバッキオがコイツに言った。


「散歩に行くんだって〜」

「散歩に行くそうです」

「散歩だそーだ」


余計なこと言いやがってこのクソ野郎共っていう、恨めしい視線を三人に送っていると、これまたイチイチカッコイイブチャラティ様が柔らかい笑みを浮かべてアキに言った。


「ミスタは一人で散歩に行きたいそうだ」

『そっか、気をつけてね』

「お前はオレと仕事。いつもの見回りと称した散歩に行くとしよう」

『パン屋の近くにジェラート屋さん出来たんだよ!シャバ代貰わないとね!』

「ほう、それは初耳だ」

『ついでにジェラート買っちゃおう!ブチャラティさんも一緒に食べようね!』

「もちろんだ」


腰を落としかけたままでポカーンとしてるオレをチラッと見て鼻で笑ったブチャラティ様。今のやり取りを見てた、フーゴ、ナランチャ、アバッキオは「「「あーははは!!」」」とオレを指差して大爆笑。

何かもう言葉に出来ない感情が沸き上がってきて、でも、これをどう言葉にしていいもんか分からず、両手でバンッとテーブルを叩いてオレは叫んだ。


「やっぱりブチャラティに勝てませんでした!!」

「ブチャラティに勝とうとか厚かましいんですけど〜」

「身の程知らず」

「次元が違うだろ」


オレ、仕事も恋も自信なくしました。
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